薄桜鬼|series

□Bonne annee!
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今年の冬休みというか、年越しはいつもと違った。

緊張もするけど、嬉しいし、ドキドキしてしまう夜。


私は土方さん宅にお邪魔している。


リビングのテーブルの真ん中で湯気を上らせる鍋。
私は土方さんと二人仲良く鍋をつついていた。


目の前のテレビはどのチャンネルにしても、やたらと無駄に長時間の番組ばかり。


「テレビ、何が見たいですか?紅白ですか?」

「郁の好きなのでいい」

「じゃぁお言葉に甘えて…」


リモコンを取って私は年末恒例のバラエティ番組を選んだ。


「お前、こういうのが好きなのか?」

「土方さん嫌ですか?」

「あんま見ねぇな。そもそもテレビ自体見ねぇしな」

「これおもしろいですよー」


別に私の好みを押しつけるわけじゃないけど、教師土方歳三しか知らない私は、男土方歳三の趣味嗜好がまったくと言っていいほど分らない。

テレビ番組だって食事の好みだってそう。


「お口に合いますか?」

「あぁ美味い」


よく考えればこれが土方さんに披露する初めての手料理。

初手料理の選択ミスかとも思えるまさかの鍋。

材料を切って鍋に放り込めばあとは待つだけの鍋。誰でもできる鍋。

料理ができない女だと思われていないだろうか。


「どうした?食わねぇのか」

「…たっ、食べますっ」


慌てて皿に肉や野菜を取って口に放り込む。

「あ、つっ!!」

「何やってんだ」
私、今、すっごく呆れられた。


涙目で水を飲み干しながら一息ついて、土方さんを窺う。

柔らかい表情で土方さんは私の顔を覗きこんだ。

「何かしょうもないこと考えてたんだろ」

「……分りました?」

「郁のことだ、どうでもいいようなことで悩んでんだろ。言ってみろ」
「えっと…」

これじゃまるで教師土方歳三。私は悩みを抱える学生か。
とりあえずは、土方さんに事の次第を打ち明けた。


「お前なぁ、そんなこと俺は気にしてねぇ。鍋だって下手くそな奴が作れば不味いんだ」

「それって経験談ですか?」

ちょっとくらい私を対等に見てほしくて、歴代彼女を思い出させるような皮肉を交えて言ってみた。


「あぁそうだな。永倉の作った鍋なんて食えたもんじゃねーぞ」
「…永倉さん、ですか……」

昔の女と比べられるよりショックだったかもしれない、その名前。


「郁の不安まとめて解消してやるよ」

「はいっ?」

取り皿と箸を置くと土方さんはテレビの電源を消して真っすぐに私を見据える。


急に静まり返った部屋。
真剣に見つめられる。


教師としてではなく、一人の男としての眼差しを向ける土方さんに、私の鼓動は高鳴るばかり。


「まだ付き合い始めたばかりで、互いを知ってると言っても、職場での姿だけだろ」

「はい…」

「俺だって郁の好み何一つ知らねぇんだ」

確かに土方さんの言う通りで、語尾と共に優しく微笑む土方さんの言葉にこくりと頷いた。


「これからゆっくり時間を掛けて分りあえばいい」
そして私の土方さんの距離が近くなり、唇が触れそうになる。

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