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□02:電撃的な男
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ホームでの試合後。
クラブハウスに戻り、一段落してからだった。

「あ、後藤みっけー」

達海が後藤の後姿を見つけて、声をかけた。
薄っぺらい紙が達海の手でヒラヒラ踊り、後藤の目に着く。

「どうした?」
「あーこれな。ここにサインと印鑑よろしく」
「あぁ、うん…」

何一つ説明はなく、よれよれになった薄い紙が後藤の手元に渡された。

「…って、オイ、達海!!」
ちらりと見て、何気なく遣り過ごしそうになっていた後藤は、その用紙に改めて視線を向けて驚く。

「急ぎだからなー」

「待て、待て、待て、達海っ!!」

数メートル先の達海が後藤の制止に立ち止まり、頭を掻きながら振り向く。

「た、達海…お前、これ、これっ…」

後藤の動揺っぷりが半端ない。

「何だよー。見りゃ分んだろー。婚姻届に決まってんじゃんかー」

「はぁっ!?」

"夫になる人"の欄にはしっかりと達海の名前が、達海の字で書かれている。
それに何よりも後藤を驚愕させたのは"妻になる人"。

もちろん相手が存在しないことには婚姻届なんて提出もできなければ、婚姻を認められることもない。
そこにはしっかりと相手の名前と住所が明記されて、印鑑も押印されていた。

妻になる人、結城アキヲ。


「え、何、後藤は証人なってくんねーの?」
「いや、そういうわけじゃなくて…俺知らなかったぞ!?」
「だって、昨日決めたから」
またとんでもないことをさらりと言ってしまう達海。

「違う。アキヲちゃんとそういう関係だった事を、知らなかったって言ってるんだ」
「言ってねーし」
「報告の義務があるとは言わないが、クラブ内でのことだからそれなりに対処してほしかったんだが…」

後藤は額を抑えて溜め息をついた。

「結局、今の今まで気付かなかったんだからいいんじゃね?」
「そういう問題か?」
「まぁ何も変わらねーし。俺はココに住んでるし、アキヲも今のマンションから通勤すっから」
「あのなぁ…達海」
「問題ある?」
「俺は、何も変わらないのが問題あると思うがな…」

突然の展開について行けず溜め息しか出ない後藤。

「アキヲが、俺が監督としてやりやすいようにすればいいって言ってくれてんだ」
「…甘えずぎだろ」
満面の笑みを浮かべる達海の顔は、後藤が今までに見た達海のどの表情とも違ったものだった。


「で、書いてくんねーの?」
「書くよ、ちゃんと証人になるから、アキヲちゃん泣かせるなよ」
「分ーってるって」

飄々とした達海は「よろしくなー」と片手を上げて、元用具室に入って行った。


後藤は改めて婚姻届を見る。



住所、クラブハウスの住所書いてあるけどど…受理されるのか?
世帯主は空白なってるし…
相変わらず適当なヤツだな。



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