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□04:勘違いな男
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夜、人気のないグラウンド。
俺と赤崎さんと世良さんが、他の人たちよりも帰りが遅くなっていた。
「スタメン争い厳しいよなー」
「自信ないんスか、世良さん」
「何だよー自信家だな赤崎。てか椿はどうだよー?」
「俺っスか!?」
ホームでの試合を二日後に控えて、俺たちは妙な興奮と自信を持っていた。
何だかんだと、ほぼ世良さんが喋りながら、薄暗いクラブハウスの横を通りかかった時。
「…っ…ぁ…」
何処からともなく聞こえた声。
微かな声。
それは、まるで女がすすり泣くかのような声。
俺だけじゃなくて、その声は赤崎さんも世良さんの耳にも届いたようで、三人して目を合わせた。
「え…何、今の…?」
「この辺薄暗いし、どっかのバカップルじゃないんスか?」
「え、でも幽霊とかそんな感じじゃ…なかったスか…」
「ビビりすぎだよ椿ー」
気付いた割に、怖がっているのは俺一人だけ。
あれは、絶対にホラー系の声だ。
*
翌日の練習。
明日にホームでのリーグ戦を控えての最終調整。
見事に俺はボロボロだった。
連携ミスってばかりで、精度の高い王子のパスにも合わせることができなければ、ボールウォッチャーになってると黒田さんから怒鳴られた。
食堂でもどやされる俺。
「椿、お前やる気ないならやめちまえっ!!」
「クロさん、あんま怒らないでやって下さいよー」
世良さんが苦笑いでフォローしてくれる。
「アレ気にしてるのか?」
「…ハイ…」
「アレって何だい?バッキー」
怯えて言えない俺に変わって赤崎さんが説明してくれた。
「昨日の夜、俺と椿と世良さんがクラブハウスの横を…」
酷いくらいに大爆笑の皆。
「椿、お前、幽霊って!!!!」
「え、怖くないっスか!?」
「絶対聞き間違いだ」
「赤崎の推理がいちばん妥当だな」
「えー、そうなんスかねぇ…」
「おー椿。お前調子悪いのか?」
やたら騒がしい食堂の一角に監督の登場。
「あ、え、そんなことないッス」
「体調悪くないならいいんだけどな、もっと集中しろよ。ミスが目立つ」
「ウッス」
「てか、監督コイツ幽霊にビビってるんすよー」
「ちょ、世良さんっ!!」
監督にまで言う必要ないのに。
「あはぁ幽霊?」
というわけで、皆の前で再度繰り広げられる説明。
案の定、大爆笑。
俺ってどんだけ笑われるんだろ。
「あのなー椿。絶対何かの聞き間違い。聞こえたとしても幽霊なんかじゃねーよ」
「監督まで…」
「お前ビビってるけど、世の中何よりも怖いもんは人間だろー」
確かにそうだ。
監督の言う通りだった。
「とうわけで、しょうもないことで集中力切らしてミスんな」
それだけ言うと監督は食堂を出て行った。
ほんと、情けないなぁ俺。
◇
"コン、コン"
「お疲れ様です」
翌日の試合に備えてDVDとデート中の達海の元へ、アキヲをが夕食を持って尋ねた。
「ここ、置いときますね」
「おーサンキュー」
「それじゃぁ。明日期待してますね」
達海の邪魔をしまいと、アキヲはそそくさと帰ろうとした。
「あのさー」
「え、他に何か要るものありました?」
達海の視線はテレビの画面に夢中のまま。
「毎日、毎晩、アキヲが要るんだけど、ちょっと場所考えよっか」
「あの…それについては前から言ってると思うんですけど…」
「可愛い嫁さん近くに居たら我慢できねーじゃん」
「その言葉、素直に喜べないです」
「うん、でね。どーも外に聞こえてるっぽい」
「だから、私、ここは嫌って言ってるじゃないですかっ!!」
"バカっ!!"