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□05:続・勘違いの男
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いつだったか、前にもこの三人でここを歩いていた。
俺と赤崎さんと世良さんと、夜のクラブハウスの横を。

皆に違うって笑われたけど、やっぱり何か…納得できない。

「っ…ぁっんっ…」

なんて思っていたら、また聞こえた。

「うわっ、またっ!!」
思わず肩が震える。
「てか、違くね?」
「幽霊っていうか、どっちかていうと…アレっスよね」
「だよな。赤崎」

赤崎さんと世良さんが納得しているようだけど、俺は理解できていない。

「な、アッチの方じゃね?」
世良さんが指さした方に赤崎さんも同意して頷く。
「せ、世良さん…あっちって…クラブハウスのどこかの部屋で…」
「監督の部屋じゃないッスか?」
「うん…多分そう」

「え、ぇ、クラブハウスに幽霊が出るってことッスか!?」
「違げぇよ。椿」
世良さんがニヤニヤ笑いながら言うけど、一向に俺には分らないまま。
そしてそのまま背中を押されて、薄暗いクラブハウス内に立ち入る。

昼間のクラブハウスと違って、夜は気持ち悪いくらい静かで暗い。
いつも出入りしているはずの場所がこんなにも薄気味悪いなんて思わなかった。

「てか、デバガメすぎじゃないッスか」
俺がビビりすぎなのもあるけど、赤崎さんは冷静すぎる。

足音を立てずに、息をひそめて、そろりそろりとその音源を探す。
明らかに世良さん、わくわくしてる。


「やっ…やめってぇっ…ぁあんっ…はぁっ」

扉の隙間から廊下に漏れる一筋の明かり。

そこから明らかに聞こえた声。
幽霊とか曖昧なものではなくてはっきりとした女の人の声。

世良さんと赤崎さんは丸くした目を見合わせて驚いていた。

「いっ、痛いっ…たつみさぁんっ」
「うそ、気持ちいい癖に」

予想通りその声の発信源は達海が住まいとする用具室。
さすがに鈍い俺も明かりの漏れる一室で何が起こっているのか察しがついた。

瞬時に顔が真っ赤になる。

「あ、も、もぉ止めないッスか?」
何かこれ以上は社会人として、何よりも人としてやってはいけないような気がする。
「うーん」
日頃騒がしい世良さんも呻る。

「でも…監督の相手って誰なんスかね?」
赤崎さんの素朴な疑問に俺も世良さんも黙った。

確かに、気なることは気になるが。
やはりここは大人として引き返すべき。

「赤崎がそんなこと言うから、気になって仕方ねぇーじゃんかっ」
「え、俺のせいッスか!?」
世良さんは何だかんだと理由をつけては、自分の好奇心旺盛さを赤崎さんのせいにして、足を進めた。

そろり、そろりと明かりの零れる部屋へ。

いけないことだと分りながらも、俺たちはその隙間から、息を殺して覗き見た。

「やっ…ん…」

人気がないとはいえ、遠慮なく響く甘い声。

「場所考えろよな」
赤崎さんの呟きはもっともだった。
一緒に覗いているけど。

監督の背中が見えるが、相手の女の人が誰かが分らない。
世良さんが左右に首を振って狭い隙間から何とかして覗こうとしている。
ほんと、すごい執着だと思う。感服する。

「見えねぇ…」
世良さんがぼそりと呟く。
「もう、止めましょうょ…」
いたたまれなくなってこの場から逃げようとした。
世良さんの後ろで中腰でいた俺は腰を伸ばそうとした時、情けなくもバランスを崩してしまい。

"うわっ!!"

二人の空間に、世良さんと共に雪崩れ込んでしまった。


「何やってんのお前ら?」

折り重なったままの俺と世良さん。その後ろで立ち尽くす赤崎さん。

目の前には不思議そうな顔した監督と、そして、アキヲさん!?

「いやー、そのこっちの方から怪しい声が聞こえてきたんで…そのぉー」
「はぁ、怪しい声?」
「監督とアキヲさん何してんスか?」
一番後ろの赤崎さんが冷静に疑問を投げかけた。

「何ってこれ、足ツボマッサージ」

よくよく見れば、二人ともちゃんと服着てるし、監督はアキヲさんの足の裏だけ触ってるし。

「えー何ーお前ら、もしかしてヤラシイこと想像して覗きに来たぁ?」
「え、あ、ち違うッス!!失礼しまっす!!」
監督の指摘に俺たちは慌てて一目散に走り去った。
恥ずかしいやらみっともないやら。


「あー何だ、この前のも足ツボかよー」
「そうみたいッスね」
世良さんと赤崎さんは前の"声"もそう決定付けた。
何か違う気がするのは俺だけなのか?




「痛いって言ってるんです。ほんと、止めて下さいよっ!!」
「えー、アキヲが疲れてるって言うからさー」
「余計なお世話です!!」
「じゃーさぁー、セッ…」
「しませんっ!!」



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