GK|short

□エスコート
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「たーつーみーさんっ。起きてくださいっ」
クラブハウスの用具室を自室にする変人監督を叩き起こす。

「うーん、ねみぃ。あと5分」
剥がした毛布を私の手から奪い、監督は眠りに就こうとする。

「もう、みんな集まってます!監督が遅刻してどうすんですかっ!!」
もう一度毛布を剥がして、監督を怒鳴り散らして、今度こそ起こした。

ボサボサの頭で、目を擦って、欠伸をして、何かもう…頼りない。

「んー」
おもむろに監督の右手が伸びる。

「何ですか?」
「アキヲ手、つないで」
「はぁ?」
「エスコートして」

またよく分らないことを言い出した。この変人監督。

「ほら、昔みたいにさ」
ニヒヒと笑う監督。
真っ赤になる私。

ものすごーく、エラそうな事を言った過去を思い出す。

「覚えてたんですか!?」
「そりゃ覚えてるって。あんな、エラそうな子供いねーじゃん」

「あ、あの時はその…何て言うか…」
何とか10年前の弁明をしようと四苦八苦する。

「まだ成さんの方がいい?」
「た、達海さんがいいですっ」
「そお、よかったー」
ニヒーと笑う監督の口元。

「意味間違えてませんかっ?」
「うん?」
伸ばされた右手は私の左手を掴んだ。

「ほら、グラウンド行かないと。皆待ってますから」
「手、つないで行こ」

私は達海さんに手をつながれて、
何故か私が達海さんに引っ張られて、
私は恥ずかしくて俯いたまま、グラウンドに出る寸前まで連れて行かれた。

誰にも見られなくてよかったけど。

こんなに恥ずかしい思いさせられるなんて、「成田さんがいい」って言った10年前の仕返し?


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