薄桜鬼|series

□Bonne annee!
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"ピンポーン"



空気を読まないチャイムが鳴り響いた。


「ったく…」

舌打ちをして、土方さんは立ち上がり、玄関へ向かう。


大晦日の夜に誰が何の用事で訪ねてくるのだろう。
不機嫌そうな返事をして、土方さんがドアを開けた。


私のいるリビングまではドア一枚隔てただけで、声が聞こえてくる。


「土方さん、どうせ独りだろー」
男の人の声だ。

「俺らが酒持ってきてやったんだ。寂い男同士、年を明かそうぜ」

「おい、勝手にあがるな!!」

陽気な声とそれを制止する土方さんの声。

「悪りぃ、土方さん。コイツ止められなかった俺の責任だ」

遠慮がちな声も聞こえる。


少なくとも来訪者は二人の男。しかも聞き覚えのある声。

それは次第に近づいてくる。


そして開けられたリビングへのドア。


「あ、」


目が合った瞬間、まるで時が止まったかのような沈黙。


声の主は同僚というか、先輩教師の永倉新八。

そしてその後ろから見える赤みがかった髪の男性は同じく先輩教師の原田左之助。

更にその後ろには「見つかった」とばかりに額を押さえる土方さん。



「なんだー、郁も来てたのかー!!ちょうどいいし一緒に呑もうぜー!!」

一升瓶をかざして、もう片手にはビールやチュウハイ、つまみの入った袋を持った永倉さんは大声で笑いながらこっちに寄ってくる。

明らかに出来上がっている。

「おい新八。帰ろう」

制止するのは原田さん。状況を察してくれたようだった。


「何言ってんだよ、左之。皆で呑んだ方が楽しいだろっ」

しかし原田さんの制止も、苛立つ土方さんも無視して、永倉さんはさっきまで土方さんが居た位置にどかっと腰を落ち着かせる。

つまりは私の隣に座った永倉さん。

いよいよ土方さんの怒りも頂点に達した模様。


「新八っ!!」

「何だよー土方さん。みずくさいなぁ〜、4人で一緒に呑んだ方が楽しいじゃねぇかっ!!」

「新八、論点がズレてんだ」

呑む呑まないに対してではなく、私の隣に座ったことが土方さんの雷の原因。

酔いすぎて思考のまとまらない永倉さんに、呆れて溜め息をつく原田さん。


「大勢の方が楽しいですよ」

二人きりの時間は終わってしまって残念だけど、土方さんと仲のいい永倉さんと原田さんとなら楽しいだろうし、私も大歓迎だ。

私の家ではないし、決定権は土方さんにあるんだけど。


「はぁ…郁がそう言うなら…」

肩を落として溜め息をつき、土方さんはさっきと反対側の私の隣に座った。
そして申し訳なさそうに「わりぃな」と告げた原田さんは土方さんの隣り、私の真正面へ。



二人でゆっくりと過ごすはずの年越しが一転して忘年会へと様変わりした。



永倉さんが持って来てくれたお酒の数々。

出来上がった永倉さんも原田さんも結構呑んでいるし、私はこの前の二の舞にならないように、ビールを口にしている。


隣の土方さんも呑んでいるけど、量は私も含めた三人よりも呑んでいない。なのに、もう目が据わっていた。


「土方さん、大丈夫ですか?」

「あぁ、何がだ!?これくらいで酔うわけねぇだろ」

意外だった。あの土方さんがお酒に弱いなんて。

思わず口元が緩む。


「何がおもしろいんだ?」
「え、いえ、何もっ」

鋭い視線とすごみの利いた声に背筋が凍りついた。


「土方さん、可愛い恋人相手に絡むなって」

「う、うっせー、絡んでるわけじゃねぇ」

土方さんを冷やかすような原田さんの助け船。土方さんは口籠ってグラスの中身を飲み干した。


「え、何!?二人、そーゆー関係なのかっ!?」

そしてまさかの永倉さんの発言。

「おいおい今更だろ」

苦笑する原田さんに、私は否定も肯定も出来ずにいた。


「んだよっ、はっきりしとかねーと郁に変な虫が着いたら厄介だな」

酔いの回った土方さんは赤ら顔でそう言うと、突如私の肩を抱き寄せて、こともあろうか同僚教師の目の前で、私の唇に勢いよくキスをした。

こんな大胆な行動に出る人だとは思わなかったから、私は何度も瞬きを繰り返して呆気に取られる。

もちろん唇は塞がれたまま。

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