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□06:阻止する男
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で、結局私はお洒落で高そうなレストランでジーノと向かい合って座っている。


「アキヲはタッツミーと仲がいいよね」
「…うーん…仲、いいの…かなぁ…」
「同じクラブだけど営業と監督じゃ顔を合わせることも少ないのにね」
「営業と選手もそうそう会わないと思うけど」
「あは、僕はいつもアキヲをチェックしてるんだよ」
「ストーカーみたい」
「失敬だね」

軽い冗談を交えながら、目の前の料理に手をつけていく。
ジーノから一線を引くために距離を置いて言葉を選んで壁を作る。

バッグの携帯が震える。

「ちょっとごめん」
ジーノに断りを入れて、携帯を手にすると席を立つ。

クラブハウスからの電話。
人気のない場所で通話ボタンを押して電話に出る。

"あー俺だけど…"

「何かありました?」

"ううん、別に…何だっけ、用事忘れた"

「もう電話切りますよ」

"うん"

何だかよく分らない達海さんからの迷惑な電話。
溜め息をついて、席に戻るとジーノが笑顔で待っていた。

「ごめんね」
「構わないさ」
彼のナイフとフォークが優雅に動く。

「ところで、アキヲは僕のこと嫌いかい?」
「どっちかって言うとジーノは苦手」
「でも僕とアキヲは気が合うと思うよ。似た者同士ね」
「そう?」
ジーノの言わんとすることが理解できない。
どこをどう解釈すれば私とジーノの気が合うのか。ましてやどこも似ていない。


また私のバッグが震える。
バッグに視線を移し、携帯を手に取った。
「どうぞ」
ジーノは私の仕草だけで携帯が呼んでいることを察してくれた。
「ごめんね」

また席を立ち、先程同様人気のないところで隠れて電話に出る。


「何ですか?何回も、ゆっくり食事させてください」

"ごめんねー。用事思いついたから電話した"

電話相手は奇妙なことを言う。
「思いついた。ってどういうことですか?思い出したじゃないんですか」

"んにゃ、思いついたの"

「もぉ、どうでもいいです。さっさと用件をそうぞ」

"タマゴサンドとドクターペッパー"

「あー、そーですか。じゃぁ切りますね」

"けっこー急ぎでよろしく"

何て意味不明な電話。


「ほんと、何度もごめんね」
ジーノに謝り席に着く。

「愛されてるんだね」
「愛してる人の食事を邪魔するものなの男って」
苛々してナイフの使い方が少々荒くなる。

「気になるんじゃない?」
「なら、行くなって言えばいいのに」
「そこは男のプライドってヤツだよ。年上の男として余裕見せなきゃね」
「分んなーい」
投げやりな私の口ぶりにジーノが笑う。
この人の余裕な態度も私には分らない。


「僕も愛してあげるのにな…」
意味深な台詞がジーノ口から零れる。

「ジーノならたくさんの女の子が愛してくれるでしょ」
「たくさんじゃ意味がないんだよ。ただ一人じゃないと」
「ふーん、そういうものなのね。モテる男の贅沢な悩みにしか思えない」

「羨ましいね…」
呟くように微かな声が聞こえた。


「あ、そうだ。すっかり忘れるところだったよ」
ジーノがギャルソンに目くばせすると、奥に居たギャルソンが何やら箱を持ってこちらにやってきた。

「僕からのお祝いだよ」

私は差し出したの箱の中身に目を見張る。

サテン貼りの化粧箱にはシャンパンが真ん中に、そしてその両隣にはフランスの有名なガラスメーカーのペアシャンパングラス。
純白のリボンを結ばれたシャンパンは一目で誰でもその名前を耳にしたことのある高価な物だと分った。

よくよく見ればシャンパンのラベルには達海さんと私の名前が英語で、そして大きな文字で"Happy Wedding"と記されていた。


「ジーノ、これ…」
「どうぞ、僕からの気持ちだよ」
「でも、誰にも言ってないのにどうして分ったの?」
「タッツミーのアキヲに対する態度を見ていればすぐに分るよ」
「そうなの?」
「まぁ分るのは僕くらいだけだろうね」
ジーノらしい口ぶりに笑ってしまう。

「ありがとう、ジーノ」
嬉しさと意外なのと、それが苦手なジーノからなのとで驚きを隠せない。

「タッツミー騙されたのかな」
グラスのミネラルウォーターを口に含み、ジーノは笑った。

「酷くない?」
「そうかな?僕はどうやってタッツミーを落としたのか知りたいよ」
「落としたって…」
「まぁ、それはまた別の機会に窺うとするよ」

するとジーノは席を立った。
卒のない仕草で私をスマートにエスコートしてくれる。

「送って行くよ」
「ありがと…でもクラブハウスまでお願い」
「タッツミーだね…分ったよ」
何でもお見通しのジーノ。

夜の街を走ると瞬くネオンを通りすぎる度に、窓には私の顔が写り込む。
その奥にはジーノの横顔。

「ねぇジーノ」
「何だい?」
「悔しい?」
「悔しくはないよ。それより一歩リードしてるからって慢心して、足元掬われないように気をつけることだね」
対向車のライトに照られた、ジーノの横顔が不敵に笑った。

「何て自信…」
「アハ、やっぱ僕たち似た者同士だよね」
「そういう意味では…確かに」


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