ギアス短編小説
□【オシアヌスの香り】
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本当はさ、君を想うだけで苦しかったりするよ…
本当はさ、君から連絡が来るだけで嬉しかったりするよ…
本当は …僕だけを見ていてくれたら…
…そう思ってる
いつからこんな風に思い始めたんだろう…
いつから君は僕の心をこんなに…
本当はもぅ …苦しみたくなんて なかったのに…
【オシアヌスの香り】
すっかり陽が沈んでしまった学園の敷地内にある、クラブハウスのルルーシュの部屋のベットの上。
スザクは自分の隣に裸体で横たわり、気持ち良さそうに寝息を立てているルルーシュの横顔を覗き見ながら切な気に溜息を零した。
ゆっくりと起き上がると、上半身に掛っていた薄い肌触りのよい掛布がスルスルと肌を滑り落ちていく。
一糸纏わぬ姿でその場に座ったまま、開け放たれたカーテンから差し込む月明かりを目に、スザクは僅かに目を細めた。
「遊びだって構わないよ。」
そう言ったのはスザク。
ルルーシュは「そんな事はダメだ…」…そう拒んだ。…けれど、結局スザクを受け入れてしまった。
記憶を書き換えられたルルーシュ…。
スザクはユフィーに対する想いを抱えたまま、ルルーシュの事を見つめていた。
…そう、それは監視…だったはず。
皇帝に記憶を書き換えられたルルーシュは昔のままで…スザクは温かなヒダマリのようだった昔の毎日を懐かしむように惹かれていった。
ルルーシュ、…君とナナリーと僕と…いつも一緒で…
あの頃は、こんな日が…あんな恐ろしい事が…起きるなんて思っていなかった。
ふと吹いた風が連れてきたルルーシュの香り。
香水をつけないルルーシュの体から漂うは石鹸の…オシアヌスの香り…。
爽やかな鼻孔を擽るそれに…スザクは惹かれるようにルルーシュを瞳に焼き付けるようになっていった。
苦しかったよ、君を思い出すたび。
まるでユフィーを裏切っているようなそんな気分になる。
白い肌から血の気の引いていく様を…
紫色に変色した唇が、途切れ途切れに言葉を紡ぐ様も…僕はこの目で見ていたのに。
冷たくなっていくユフィーを抱える腕が震えて…この人が助かるなら、他には何も要らないとさえ本気で思った…。
(それなのに…)
今僕の心は君を求めている…。
月明かりを浴び、ルルーシュの胸元に掛る掛布が規則正しげに小さく上下を繰り返す。
穏やかな呼吸が …彼が今生きている事を教えてくれる。
そぅ…初めは少し嬉しかっただけ。
最初は、ユフィーを死に追いやった…虐殺の汚名をきせたゼロが…ルルーシュが許せなかったスザクだった。
しかし、そんな記憶の無いルルーシュは昔のように…何も変わらずスザクに優しく…周りにも穏やかで…ナナリーのかわりに誂えられた弟を大切に思っい…スザクの好きだったルルーシュのままだった…。
憎しみが消えたわけではない。必死に自分に言い聞かせる毎日。
それでも、相手がなにも覚えていないのでは…憎しみの矛先は何処に向けて良いのかも解らず、怒が巣くう心の部分は次第に萎み、薄れていった。
傍に居るといつもルルーシュの体からは良い香りがしていた。
家に遊びに来た時、それがボディーソープの香りだと気がついた。
軍の仕事で忙しい中、それでも足繁く学園に顔を出していたのは他でもなくルルーシュの顔が見たかったから。
初めは記憶が戻っていやしないか…監視のつもりで通っていた。
しかし…気づいてしまった恋心。
ルルーシュがシャーリーと話すたび…他の女の子と笑いあう度、胸のあたりがギスギスと軋む。