オリジナル小説

□【嫉妬の花】…短編小説
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見ているだけで 不快感を感じる

心の中でジリジリと 何かが燃えているような 苛立ち



自分ではどうする事も出来なくて・・・

それをどうにかしたくて・・・



何が憎い訳でもない

アイツの全てが気に食わない



ただ見られていることでも その視線に “蔑み” を感じる 

アイツの何処かが気に入らないんじゃない・・・



アイツの  全てが  気に入らない・・・




嫉妬の花






「おぃ、お前暇なんだろ?・・・コレ明日までにやっておけよ。」

机の上にプリントを投げ出し、相手の座っている椅子を蹴飛ばして自分の席に戻った。

プリントを机にたたき付けていた彼の名は 倉橋 秀人(クラハシ ヒデト)
蹴られた椅子に座っているは、滝沢 志義(タキザワ シギ)

この2人の中は・・・険悪そのもの・・・
1年の時も同じクラスだったこの2人・・・2年に進級してクラス替えがあったにも関らず
再び顔を付き合わせる事と成ってしまった・・・。

倉橋は志義の事をこの上なく不快な存在としてみていた。
何でも器用に遣って退ける志義は、何時でも優等生の仮面を被ったまま・・・。
志義を見ていると、自分がどれだけ“不出来な人間”かを思い知らされる・・・。

美しい容姿にも恵まれている志義・・・。
勉強だって学年一・・・。
家は金持ちだって噂だし、運動神経だって悪くは無い。

それに比べて自分は・・・
不細工ではないにしろ、美しいとは言い難い容姿。
身長は180cmちょっととこの歳にしては高め…どう見たって体育会系の体つき・・・
運動神経は普通より少し良いくらいで・・・自慢できる程ではない・・。
健康的に焼けている肌は、勉強などぜずに外ででも遊んでそうな印象を与えてしまうし
顔つきも強面で・・・大人たちの受けは悪い。
特に悪いのは鋭いつり目だろうか・・・それとも脱色したように明るい髪の毛だろうか・・・
どれもこれも生まれつきなはずなのに・・・大人たちの好まぬものばかり・・・。

本当は私立など受験せずに公立でのんびりやってみたかった・・・。
受験を望んだのは親・・・
大して家に金がある訳でもないのに、近所に自慢したくて秀人を私立の有名校へと進学させた。
物心もつかぬ程幼い子供に・・・幼稚園受験・・・

毎日友達と遊びたいのに・・・それでも躾の教室だの、数のお稽古だの・・・ピアノだの・・・
言葉遣いから、日常生活まで直され、締め付けられ・・・
やっと受かった私立慶南幼稚園・・・簡単な試験にパスさえすれば、慶南小学校に上がれる・・・
あとは進学試験さえパスしておけば、大学まで受験は無し・・・親は大喜びだった・・・。

でも、現実はそんなに甘くない・・・。
都内でも有数の進学校・・・小等部から中等部に進学する時も・・・中等部から、高等部に進学する時も・・・
外からは世で言う“出来る奴”が入学してくる・・・。
頑張っているつもりでも、そんな奴らにはあっという間に追い抜かされて・・・
気付けば成績は落ち零れ・・・

そんな成績表を見て、親は喚くし怒鳴るし・・・頭痛は耐えない・・・

(誰が私立の良い処に通いたいなんて言ったんだ・・・)

自分では何一つ決める事が許されなかった今まで・・・
秀人の心は、威圧感と圧迫感で・・・押しつぶされそうになっていた。


一方的に、志義を目の仇にしているに過ぎない秀人・・・
こんな状況は、ほぼ毎日・・・。

心のストレスが・・・自分より弱い者へと牙を向く・・・

教室の中で行われる、こんなやり取り・・・
クラスメイトは見ていても、見えていない不利をする・・・。

関りたくない・・・卑怯な無視・・・

面倒な事に巻き込まれるのは、皆好まない・・・


秀人と同じ様にストレスを感じ・・・はけ口を求めるものが、それに同調してくる。
何の反応も示さぬ相手・・・
虐めはエスカレートしていくばかり・・・

秀人の周りには・・・そんな卑劣な仲間が集い始める・・・。

やり場の無い苛立ちが・・・志義をめがけ、攻撃へとカタチを変える。





                *





「何をやっているんだお前は!!」

いきなり怒鳴りつけられ、秀人は驚くように目を見張った・・・。
白い壁に・・・白い天井・・・
窓に掛かるカーテンも白く・・・清潔で・・・仄かに鼻をくすぐる薬品の匂いが
今自分の居る場所を教えてくれる。

「・・・大方チンピラにでも絡まれでもしたんだろ!・・・夜中にフラフラ、フラフラ出歩いてるからだ。」

父親が怒鳴りつけ、今にも殴りかかりそうな勢いで秀人に詰め寄ってくる。
その隣で母親は身を縮め、凄い形相で秀人を睨んでいた。

どうやら此処は病院のベットらしい・・・。
“ズキン・・・”っと後頭部に激痛が走り・・・痛みと共に、昨夜の光景が思い出された・・・。

塾の帰り道・・・返って来たきたテストが思ったよりも悪く家に足が向かなかった自分。
勉強なんてそもそも好きではない。
物心ついたときには競争社会のど真ん中に放り出されていたわけで・・・
そこから飛びぬけるコトよりも・・・置いていかれないように必死に縋りついている事しか出来なかった・・・。

テストが返ってくることは両親が知っていた。
家に着けば・・・当然見せろといわれるの決まっている。

脳裏に浮かぶは・・・聞きなれた説教の数々・・・。
まだ言われた訳でもないのに・・・2、3時間説教された気分になってしまう。

足取りは重い・・・
家になど・・・帰りたくは無かった・・・

ゲーセンにでも行こうか・・・
そんな風に思った瞬間声を掛けられた。

よくニュースなんかで見かける、繁華街にたむろって居るギャング・・・?チーマー・・・?
呼び名は定かではなくとも、ヤバイ相手に間違いは無い・・・。

優等生大事の進学校の中では自分は落ち零れ・・・。
しかし、学校にも行かず・・・家にも帰って居なさそうなそいつらからみれば秀人は金持ちそうな優等生・・・。

案の定財布を盗られ、4・5人にボコボコにされた・・・。




「お前の教育が悪いから、秀人はこんな駄目な人間に成っちまったんだ!!」

ベットに横になっている無反応の息子では飽き足らぬっと、父親の怒りの矛先は母親へと向けられる・・・。
母は黙ったまま父親の言葉を聞きながら、キッと秀人を睨んだ。

「・・・良いか、停学なんて恥ずかしい事なんだぞ!…社会に出たらはみ出し者になっちまう。」

もぅ、誰に向けて怒っているのかも解らぬほどの剣幕で捲くし立てると、この場になど居たくない・・・とでも言うように
父親は病室を後にした。
“ガチャン”っと乱暴な音を奏で、扉が閉められる。

一瞬の沈黙・・・

秀人だって解っていた・・・夜出歩いていた自分も悪いことなど・・・
こんな目にあったって・・・自分に非があるのは否めない・・・

「・・・あんたのせいでお父さんに怒られたじゃない・・・」

沈黙を破ったのは、他ならぬ母親の小言・・・。

「あんたがもっとちゃんと勉強して、父さんを喜ばせてくれたら母さん、こんな苦労しなくて済むのよ。」

その表情は怒りに満ちている・・・。

自分の息子は全身打撲でベットに横になっている。
そんな事実がこの人には見えていないのだろうか・・・。

「・・・何とか言ったらどうなの!!」

つかつかとベットに歩み寄った母は、秀人の横のなっているベットをバンッッと叩いた。
その振動で、体のあちらこちらが軋むように痛む・・・。

「・・・アンタには反省とか、謝罪とか・・・そんな言葉はでてこないの!・・・恨みがましい目で私を見ないで頂戴。」

更に声を張り上げ、母は又ベットを叩いた・・・。
何度も・・・何度も・・・何度も・・・

「・・・そんな不服そうな目で私を見ないで!・・・なんだってアンタは何時もそうなのよ!」

秀人の顔が、苦痛と激痛で歪んでいるのも見えぬッとでも言うように・・・
その行為は何度も繰り返された・・・。






面会時間も終わり、両親の居なくなった病室は静けさに包まれ 静寂が広がっていた・・・

大部屋で良いのに・・・クラスメイトの父親が経営している病院だと知った途端個室へと移した見栄っ張りな両親・・・。

おかげでそこは静か過ぎて   静か過ぎて・・・




白い天井が ・・・見えている視界が  ・・・潤んでいくのが解る

自分で決めた道じゃない・・・

勝手に敷かれたレールを・・・文句も言わずに走り続けてきたのに・・・

している努力を認められることも無く・・・

もっと頑張れと捲くし立てられた・・・




親が望んでいるような人間には成れそうも無い・・・

そう思ってたところで、口に出せるはずも無く・・・

心にたまるは不満ばかり・・・




こうしたい・・・  ああしたい・・・

今まで自分の意見など口に出来る機会なんて無かったから  何て伝えて良いのかも解らない・・・

もっと昔にそれが言えていたら  こんな事には成らなかったはず・・・




秀人の瞳から、涙が溢れ出す。

泣いたのなんて・・・何年ぶりだろう・・・

今自分の置かれている現状が  堪らなく痛い・・・




「・・・怪我人相手に・・・心配の言葉も無しかよっ・・・・・」




呟いた言葉は、思いのほか大きく聞こえ  自分の耳に入り込んできた・・・。

不服そうな目で見たわけじゃない・・・。
どうやったって・・・愛想いいような顔には見えない顔・・・
そんなのは生まれつき・・・生まれつき・・・生まれつき・・・

母親譲りの・・・

窓の外に向けた視線・・・
オレンジ色の空を見て、自分が痛めつけていた志義の顔を思い出した・・・。

あんな綺麗な顔だったら・・・
泣いても同情を引けるのかもしれない・・・

あんな華奢な体だったら・・・父さんや母さんも俺を心配してくれたかも・・・

絡まれたのは運が悪かっただけだと・・・優しい言葉を掛けてくれたかもしれない・・・






ベットに横たわっている自分の体を見て、小さく溜息が洩れる。
別に大きくなりたかったわけじゃない・・・
もっと愛されるような容姿に生まれたかった・・・

健康そうじゃなくて良い・・・もっと皆に心配して貰える体格でよかった・・・

志義の姿は・・・秀人にとってまさに理想・・・

その志義が・・・人と距離を持ち・・・他人を遠ざけている姿が、秀人には何よりも腹立たしかった。

自分の欲しいもの全てを手にしている相手・・・
それは嫉妬でしかない・・・

それでも そんな恵まれたものをてにしながら  なぜ人を避け・・・嫌うのか・・・秀人には解りはしなかった・・・




白い部屋の 白いベットの中 

志義を思い浮かべる度に 心に嫉妬が浮かび上がる・・・




プツリ・・・  プツリ・・・
小さな音をたてながら
嫉妬の蕾が花開く・・・

誰かそれをむしりとってくれ・・・

そんな心の助けを 誰にも言えぬまま・・・

プツリ・・・  プツリ・・・
嫉妬の蕾が花開く




*END*

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