庭球長編小説

□【僕たちの想い】★R18
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友情…恋心…愛情…

嫉妬、執着は何所から来るのだろう…

それらを抱え込んだ時、どうすれば良い…

どうしたらいい・・・

誰か……教えてくれますか……

この痛みを和らげる方法を……


【僕たちの想い】


風がフワリと頬を擽る
何所からともなく木々の香りが漂い
日差しは春を歌っていた

今日は入学式


「リョーマ忘れ物よ」

体操着の入った袋を握り締め越前リョーマの母は彼を追ってきた。

「もう…今日から中学生なのよ。しっかりして頂戴」

不満タップリで自分を見下ろす母にボソッと彼は答える。

「それ、今日いらないんだけど…」

そしてリョーマは再び学校へと歩き始めた。

テニス部に入ることは前から決めていた。
だから仮入部しようと思えば、今日から参加する事は可能だった。
でも、リョーマは一度しっかりみてみたかったのだ。

青学テニス部が、どんなものなのかを。
どんな人達が居るのかを・・・。



「それじゃぁ、今日はこれで終わりだ。」

担任の声にリョーマは我に返った。
入学式も終わり、リョーマはテニスコートへと向かった。

校庭は部活生の声で賑わってる。
リョーマは眠たい目を擦りながら校舎を曲がろうとした。

「うわっ!」

その時、大きな声と共にリョーマの体はドサリと倒れこんだ。
大きなものが凄い勢いで、ぶつかってきたのだ。

「イッテェ……」

吹っ飛ばされたリョーマは、尻餅を着くように肘から転んでいった。

「悪りぃ…大丈夫か…?」

体当たりして来た奴がリョーマの腕を少々乱暴に掴み、助け起こした。


「何やってんだよ!…桃城。先いってんぞ。」

そいつの友達らしき奴らがリョーマと桃城を通り過ぎ、追い越していく。

「本当悪かったな。…急いでたからさぁ…」

そいつは砂だらけになったリョーマの制服をポンポンっと叩きながら苦笑い浮かべてそう言った。

「いいッスヨ…別に…」

リョーマは制服を軽く叩きながら立ち上がり、小さく言った。

「あれっ…お前新入生か…。…新しい制服、早速汚しちまったな…」

桃城は済まなそうにそう言う。

「平気ッスヨ。…それより急いでたんじゃないんッスカ…」

どうでもいいようにリョーマが言うと、桃城は急ぎ目に落とした荷物を拾い上げ
“本当御免な” っと言って走って行った。
肩に掛けられたテニスバックが視界の端でチラリと揺れる。

「アイツも…テニス部なんだ…」

走り去る後姿を見ながらリョーマは呟いた。
走り去っていった桃城の後を追うように、リョーマはテニスコートへ向かった。

ラケットのボールを打つ、軽快な音が聞こえてる。
体育館の角をを曲ると、ソコにはテニスコートが広がっていた。

「へぇ…いいコートじゃん…」

リョーマは少し離れた所からテニスコートを見つめ、口端で小さく笑う。
桜の木の下、リョーマはこれから過ごすこの学園生活に胸を躍らせていた。


            *

「お疲れ様でした」

コート内に響き渡る声。
入学式からひと月ちょっとが過ぎ、長袖では、もう暑い季節を迎えようとしていた。

「越前、今日も後ろ乗って行くか?」

ざわついた更衣室内、着替えをしながら桃城はリョーマに訪ねた。

「桃先輩、今日もチャリなんッスカ?…じゃ、帰りなんか食べて帰りましょうよ。」

肌に纏う汗を拭きながらリョーマは答えた。

「お〜っ、いいね。丁度腹も減ってたしな」

「桃先輩の奢りッスヨ」

「えっ、マジで…。しょ〜がねぇな…。今日だけだぞ」

そんな2人のやり取りを見ていた不二が小さく笑った。

「2人とも、仲いいよね…。」

「そうッスカ?」

苦笑いで答えたのは桃城。
その後ろでリョーマも小さく笑っていた。

「お疲れ様でした…」

そう言って、桃城とリョーマは部室を後にする。
自転車に乗り、何時もの店に向かう。

頬をさする様な、風が気持ちい…

陽も穏やかで、芝生の上にでも寝転びたい気分になった…

「ねぇ、桃先輩。買ってきて公園で食べよう…」

風になびく髪を押さえながら微笑むリョーマ

「だって…気持ちいいよ…。……凄く」

黙ったまま桃城は頷き、小さく笑って自転車をこいでいた。



「この辺で良いよね…」

軽い足取りで芝生の上を歩きながらリョーマは言う。
その後ろを紙袋を抱えてのんびり歩いてくる桃城。

静かにリョーマは腰を下ろして、地面をポンポンっと叩いた。
叩かれた場所に座る桃城。
カサリと音をたてリョーマは紙袋を開け、ハンバーガーを取り出し桃城に手渡す。

「サンキュ…」

小さく言い、受け取って2人は食べ始めた。

「ねぇ…気持ちい良いよね…」

リョーマは正面向いたままそう口にする。
“あぁ…” 頷き微笑む桃城。

「たまにはいいな。こういうのも…悪くない…」

そうい言って桃城はゆったりと瞳を一瞬閉じた。
リョーマは、そんな桃城の顔に、一瞬ドキッとした。

今までみたどの顔とも違う…

穏やかで、ゆったりとした表情…

幸せそうな… 何とも言えない表情だった


「た、食べないんッスカ…」

少々高鳴った鼓動に、自分で違和感を感じながらリョーマは桃城に言った。

「おぅ…」

小さく頷き桃城は何時も道理の笑顔をリョーマに向けた。

(桃先輩でも、あんな顔するんだ…)

リョーマは小さく笑ってみた。

おなかが一杯になった2人は、並んで芝生の上に寝転んだ。
どちらも “苦しい…” っと言って笑う。
涼しい風に笑みを浮かべ、瞳を閉じる桃城。

リョーマは少し傾きかけた陽を感じながら、昼休みの事を思い出していた。

堀尾に尋ねられた言葉…

“越前は好きな子とかいないのか?”

“いない” と答えたリョーマの心に浮かぶ小さな疑問

“皆は…いるんだろうか…”

クラスにも馴染み始め、あちらこちらで恋の話をするクラスの奴等。
あの人はカッコイイだの、あの子は可愛いだの…

そんな話はてんでうといリョーマ
堀尾が少し馬鹿にしたように笑っていた。

(ムカつくな…)

そりゃ、恋だってしてみたいし、キスだって…その先だって興味ないわけじゃない
でも、いないんだからしょうがないじゃないか…

っと心の中でボヤイてリョーマはふと気になった。

(桃先輩も、好きな人っているのかな…)

「ねぇ、桃先輩。桃先輩も好きな人とかっているんッスカ?」

思ったまま口にしたリョーマ。
しかし返事は返ってこない。
不審に思ったリョーマは上半身を起こして桃城を見た。

「桃先輩…」

瞳に写った桃城は静かに寝息をたてていた。

「寝てる…」

リョーマは小さく呟き、苦笑いを浮かべた
(俺より子供みたいな顔してる…)
規則正しく繰り返される呼吸…桃城の唇が僅かに動いた
(夢の中でも…何か食べてるのかな)

僅かな苦笑を洩らしたリョーマは思う。

(桃先輩は…誰かとキス…したことあるのかな…)

ふと湧いた疑問
しっとりと柔らかそうな唇

触れてみたい…
若さゆえに生まれる衝動

思ったのと触れたのは、どちらが先だっただろうか…

しっとりと吸い付くような感触
暖かい…

瞳を閉じ重ねた唇

リョーマは名残惜しむようにそっと唇を離した
自分のした事を、余り理解し切れていないリョーマ
そのまま桃城を見つめる

その途端小さく息をして、桃城が目を開けた

「ん…ッ」

目を覚ました桃城

リョーマの心臓は急激に高鳴った

やっと気づいた自分の行動…

(俺…今何を…?)

心臓がバクバクと鳴り
桃城の顔色を伺う

「悪りぃ〜…寝ちまってたみたいだな…」

欠伸混じりに桃城は言い、少々眠たそうに目を擦りながら体を起こした。
その表情に何時もと違う色は見当たらない

リョーマは高鳴る鼓動を隠すだけで精一杯だった。
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