庭球長編小説

□【手折られた花】★R18
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降り注ぐ太陽の熱が暑い…

肌に纏わりつく様な汗…
べた付く不快感…

誰か…イキをさせてくれ…




【手折られた花】




照りつける様な燦々と降り注ぐ夏の太陽の下。
ボーっと突っ立ったまま忍足侑士は目眩のする様な感覚に
眉を顰めて通学路に立っていた。


ワイシャツには薄っすらと汗が滲み
小刻みに手が震えていた…。


「おい、どうしたんだ…。顔色が悪いぞ。」


路上で立ち尽くす忍足に、不意に心配する様な声を掛けてきたのは
樺地と登校してきた、跡部だった。

聞こえているのか、いないのか…
忍足は振り返る事も無く、額に手を当て立っている。

跡部は仕方なく忍足に近寄って、その肩を軽く掴んだ。

その途端グラリと忍足の体が倒れ、地面めがけて転がりそうになった。

“忍足!” 跡部がそう叫ぶのと、樺地が忍足を抱き支えたのはほぼ同時だっただろうか…。
ダラリと倒れこんだ忍足に意識は無い…。


ジィージィーと蝉の鳴き荒ぶ中
瞳を閉じ蒼白い顔をした忍足を見て、跡部は小さく舌打ちし、溜息を吐いた。


「またか…。樺地、保健室に運べ…」


“ウスッ” っと小さく返事をし、樺地は忍足を抱きかかえたまま歩き出す。

2人に焦った様子は無い…。

それもその筈…忍足が倒れたのはコレが初めてではなかった。
今月に入ってもう4度目…。
今日のを入れると5度目になる…。

樺地に抱きかかえられた忍足を見ながら、跡部は眉を顰め首を振った…。
(どうしたっていうんだ…いったい……)

ダラリト垂れ下がった腕は、この半月ほどで恐ろしく細くなってしまっていた。
顎のラインもシャープになり、食事もろくに採っていないことが推測出来る。

(いったいどうしたっていうんだ…)


              *


遠くからぼんやりと聞こえてくるようなチャイムの音を耳にしながら
忍足は、薄っすらと瞳を開けた。

白い天井と、ソコから垂れ下がる清潔そうなカーテンが
ここが保健室であるという事を教えてくれた。

覚醒し切らない霞のかかった様な頭が思考を阻む。
何度か瞬きをすると、ぼやけていた視界がクリアになっていった。

「また倒れたんか…」

ダルそうに額に手の甲を乗せて溜息を吐く。
(今日起きてから…何回溜息吐いたんやろぅ…)

忍足の表情が曇る
(何でこんな事になてしまったんかな…)

答えなど解っている…と言わんばかりの口元を堅く結んだ。
(全部アイツのせいやん…な…)

保健室のベットに横たわったまま、又 “アイツ” のことを考えている自分に気がつき
忍足は薄く苦笑を浮かべた。

拭っても拭っても…拭い去れない記憶の断片。

瞳を閉じると鮮やかに蘇る記憶。

でかい態度に物怖じしない瞳
小生意気な口調、小さな体に秘められた…熱い感情。


「越前 リョーマ…」


彼こそがこの何日も、忍足の思考をかき乱し、眠りすら妨げていた。

関東大会一回戦…。
忍足はリョーマの姿に釘付けになった。

ふてぶてしい態度で、ベンチコーチのポジションに居座っていたリョーマ。
忍足の視線は“彼が”ソコに座った時から惹かれていた。
(前に公園で見かけたな…)
他意も無く向けた視線が、まさかこんな事になろうとは、忍足自身夢にも思っていなかった。


熱い声援が木霊している中、じっと瞳を凝らしてリョーマを見つめつ忍足。


リョーマが眉を顰めれば…自分も顰める

リョーマが驚けば…自分も驚く

相手の表情につられている自分…。

怖いと感じながらも、瞳をそらす事など出来はしなかた。

最終戦…。
忍足の心臓が、早鐘の様に激しく打ち鳴った。
忍足は、結局最後までリョーマから視線を外すことは出来なかったのだ。


それからというもの、忍足の生活は一変した。
部活を休み、青学に小まめに足を運ぶ。

目眩のしそうな感覚が、リョーマを視界に捕えている時だけ和らいだ。

それは不思議な感覚…。

まるで…麻薬…

たった一瞬瞳を奪われた…ただそれだけなのに
忍足は求めた…。

麻薬患者が…薬を求めでもするかのように…。
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