キリリク庭球小説

□【Warmth to feel】
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                 触れたいって思っているのは俺だけなのかな

                     この手で貴方の体温を感じたい…

                     でも 言葉に出来ない時はどうしたらいい…?




                     Warmth to feel




                      「ふ〜じぃ〜一緒に帰ろうvv」

                      菊丸は何時もの様に不二に抱きつく。
                      部活が終わった後の何時もの光景。 


                      誰もソレを不自然だなんて思わない。 
                      この2人が付き合っているのは皆が知っていることだから。


                      不二は自分の首に回された腕をゆるく解きながら微笑む。


                      「勿論、いいよ。」


                      笑顔で頷く菊丸。

                      でも解かれた腕がほんの少し淋しくて…。 
                      何時もの事だけど、いつまで経っても慣れないそれは
                      プラン…と力なく引っ込めるしかなかった。




                      いつだって何所だって好きな相手を抱きしめていたい菊丸。


                      人目のあるところで必要以上にスキンシップを望まない不二。




                      菊丸にとってはコレは結構大問題だった。






                      夕方の暖かな風が2人を優しく包み込む。 


                      何時も道理の他愛無いお喋り、楽しい会話に、自然と零れる笑み。




                      しかし、そう思っていたのは不二だけ。 
                      菊丸の心は別の方向を向いていた。
                        (今日は絶対手が繋ぎたい…)




                      何時も抱きついたりしている菊丸だが、それとこれでは別問題。
                      癖の様に遣って退けてるそれとは違う。


                      好きな人の手を握りたい…。


                      当たり前の感情…。


                      でも、それが中々上手くいかない。
                      だってやっぱり意識しちゃうじゃない。



                      相手がやっと手に入った大切な人だから。
                      三年近くの片想いを経て、やっと両想いになれたのはつい最近。


                      一緒に居るだけで嬉しくて…嬉しくて…


                      告白したのは菊丸だけど、不二もずっと自分を好きだったと言ってくれた。
                      それって凄く嬉しい事だよね…  


                      でも……


                      相手が見てきていた自分はどんな人間なんだろう…なんてつまらない考えに囚われている菊丸。


                      つまり、今までした事のないことを、急にして…

                      嫌われちゃったらどうしようって、小さな不安。



                      『御免、やっぱり違ったみたい…』



                      そんな事を不二の口から言われたら…菊丸はきっと立ち直れない。



                      楽しくおしゃべりを続ける振りをしながら菊丸は心の中で溜息吐いた。
                           (俺って結構意気地なしかにゃ〜・・・)



                      そんな菊丸に気付かない不二ではない。
                      悩んでいる内容は解らずとも、相手の様子がおかしい事ぐらいは読み取れる。


                      「ねぇ、英二…考え事?」


                      夕陽を吸い込んだよなサラサラの髪を揺らし、不二は菊丸の顔を覗き込む。

                      菊丸は不二の顔を見つめそっと手を握った。

                      少し驚いた様に不二は菊丸を見つめる。

                      穏やかな風が2人を包んだ…。



                       「どうしたの…突然…」



                      自分を不思議そうに見つめる不二の視線…。
                      菊丸は一瞬だけ握った相手の手を離しニコッッと笑って“なんでもな〜ぃ”っと手を離した。

                      離された手が…何だか淋しげに揺れた…。


                      (やっぱり触れたいって思ってるのは俺だけみたいだ…)


                      そのまま歩き出す2人 ・・・ほんの少しの気まずさを感じながらも
                      菊丸は笑顔で居ることに努めた。


                      だってこれ以上相手に嫌な思いなんてさせられないじゃない…。




                                        *




                      「はぁ〜…」



                      菊丸は溜息吐いてフェンスに寄り掛かった。 
                      今は部活の最中。皆の一生懸命な掛け声とボールを打つ音の中
                      菊丸だけが元気なさ気に突っ立っていた。


                       やる気が出ない…。


                      原因は解ってる…でも悩んだってこういう悩みは一人で考えたって大抵無駄だ。

                      相手の気持ちが絡んでくるわけだから、菊丸一人で悩んでいたって解決できるわけが無い。



                      その時…菊丸めがけてボールが飛んできた。



                      いち早くそれに気がついたのは不二。
                      不二は大声で叫んだ。



                      「英二!危ない!」
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