キリリク庭球小説

□【目が覚めるまでは…】
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「馬鹿やろう!・・・越前何すんだょ・・・・・」

桃先輩の歪んだ表情が、馬乗りになっている俺の瞳に飛び込んでくる
動けない体を、捩りながら

だけど俺の感情なんて止まらない

止められるくらいだったら・・・
こんな事には成らなかったんだ


俺の中で壊れた理性


なのに・・・  どうして今・・・


こんなに冷静にこの人を見おろしているのだろう


伝えたい言葉があった・・・
知って欲しい想いがあった・・・

ただそれだけだった筈なのに・・・



どうしてこんな事に・・・・





目が覚めるまでは・・・






「桃先輩・・・今日ちょっと話しあるんッスケド・・・帰り先輩ん家寄って行っていいッスカ?」


部活の終わった部室の中、着替えをしながらリョーマは口を開いた。


「話し?・・・あぁいいけど・・・。そうだ・・・お前ゲームソフト貸してくれって言ってたしな
ついでにそれも持ってくか?」


「あっ・・・じゃ、そうするッス」


夕暮れ迫る部室の中で2人は着替え、外に出た。

秋空の、少し冷たい風が2人を包む。
見上げれば鱗雲

鮮やかに色を写し
茜色に染まる空に穏やかに浮かんでいる。


自転車置き場まで行くと桃城は自分の自転車にキーを差込
リョーマの方に手を差しにべた。

「ホレッ鞄・・・」

久し振りに乗る桃城の自転車

リョーマは口端に笑みをたたえ鞄を差し出した。


カラカラカラッ・・・


桃城が自転車を押す音が何だか少し懐かしくリョーマの耳に入る。
鞄を籠に放り込んだ桃城が半身振り返って笑ってる。


「じゃ、行くか・・・」


表情そのままにリョーマは車輪の横に付けられているステップに足を乗せた。
桃城の肩に添えた掌が、相手の体温を感じた。

久し振りの感触。

走り出す自転車・・・
爽やかで・・・  少し冷たい風がリョーマの髪を浚う・・・



「お前が家に来るの、久し振りだな・・・」



「そうッスネ・・・」




風に浚われる髪につられるようにリョーマは少し上を向き
頬を過ぎていく風を楽しむかのように瞳を閉じた





リョーマと桃城が一緒に帰るのは久し振りの事だった

それはリョーマが桃城を少し避けていたから・・・



初めて会ったときから惹かれていた・・・



引かれ始めた心が 苦しくなっていくのに
そう時間は掛からなかったのだ


気を抜けば口から思わぬ言葉が零れてしまいそうで
少しづつ・・・  少しづつ・・・
桃城から離れていったリョーマ


受け入れてもらえるわけが無い・・・


苦しく締め付けられる心・・・


眠れない夜に泣き
起きている時間は桃城を想った



初めて抱いた恋愛感情・・・
どうしていいのかすら・・・リョーマには解らなかったのだ




人に相談するタイプではないリョーマ

持て余す自分の気持ちを何所にも吐き出す事が出来なかった





それならばいっそ言ってしまおうか・・・






そう思い・・・  今日桃城に話があると誘ったのだ







見慣れた家が近づいてくる
リョーマの心拍数は徐々に上がる

止められた自転車から飛び下りたリョーマ
鞄を差し出す桃城


自転車を停めに行った桃城が笑いながら帰ってきた


「悪ぃ〜直ぐ開けるからよ・・・」


リョーマの目の前の扉がゆっくりと開け放たれた
ゴクリと鳴った喉に・・・  桃城は気がついただろうか・・・?



「相変わらずッスネ・・・・」



乱雑に散らかった部屋
桃城らしいといえばそれまでだが

リョーマは何となくホッとしたように笑った。


「うるせーな・・・お前が突然家に来たいなんて言うからだろ・・・」


ブツブツと文句を言いながら、桃城は部屋に落ちている物を拾い出した。
“別にそのままでもいいけどね・・・”っとリョーマは皮肉たっぷりに言いつつ部屋の中央に足を進めようとした


「うわっ!」


グラリと揺れた体
足元には電気コード


「オワッ・・・!!」


慌てて転びそうになるリョーマの体を支えた桃城


「セーフ・・・」


小さくそう言いながら一瞬抱きしめていたリョーマの体を手放し
桃城は苦笑いしながら床に屈んだ


「悪ぃ悪ぃ・・・いけねぇ〜な、いけねぇ〜よなぁ。
こんな所にコード出しっぱなしじゃ・・・」


床に屈んだ桃城は、そお言いながらリョーマの足から電気コードを外して机の上に置いた。


リョーマの肩は抱きしめられた感触に囚われたまま・・・


「で?・・・話しってなによ」


軽い口調で聞きながら、桃城は棚をごそごそとなにやら探し回っている
多分それはリョーマに貸そうとしていたゲーム


本題をいきなり切り出され、リョーマは少し戸惑った


なんて言おうか・・・
そんな事は何度も・・・  何度も・・・  考えていたはず


でも・・・  それが出てこない・・・

開きかけた口は音を発せず・・・

どうしていいか解らない・・・




「ん?・・・なんかいいずらい事か・・・?」




リョーマのそんな様子に気がつき
桃城は棚から顔を上げ振り返った


窓から差し込む夕陽を体一杯に受けて微笑む桃城

太陽の香りが漂いそうなその姿に


リョーマの心が口から素直に零れる



「桃先輩・・・・  俺・・・」



♪〜  ♪〜  ♪〜



静かだった部屋に突如鳴り響いた携帯の着信音
リョーマの心臓は驚きで跳ね上がった

零れそうになった言葉を飲み込み
リョーマは、無造作に投げられたベットの上の携帯に視線を向けた



「電話・・・ッスヨ・・・」



「・・・悪ぃ・・・・・」



ばつ悪そうに桃城は携帯を取り液晶画面に視線を向けた
顔の前で一瞬両手合わせ、リョーマに苦笑いして電話に出る


リョーマは仕方なく電話が終わるのを待つことにした



「なんだよ・・・急に電話なんて、珍しいじゃん・・・」

ちょっとリョーマに気を使ったように話す桃城
リョーマはボーっと立っているのもなんだな・・・っと棚の中のゲームを見ることにした


「あぁ・・・今度の日曜な・・・・。覚えてるよ・・・」


ぶっきらぼうな物言いのわりに・・・何だか嬉しそうに聞こえる


ゲームばかりが並ぶ棚の端に・・・不自然な広辞苑
リョーマは暇つぶしにその広辞苑を手にした


パラパラと読まないくせに開きつつ
桃城の顔をチラリと見る


ソコには嬉しそうに笑って話す桃城の姿が・・・


(誰と・・・・?)


浮かんできた疑問・・・  広辞苑を捲るリョーマの手が徐々に早くなった


「今さ、越前が家に来てんだよ・・・だから又後で掛け直すから・・・」


(俺を知っている奴・・・?)


「解ってるって〜・・・遅れたりしねぇ〜よ・・・」


言う割りには一向に切られることの無い電話
相手は誰・・・


広辞苑を持った手が小さく震える
だって嬉しそうに話をしている桃城の表情が・・・
リョーマの見たこと無い顔だったから・・・



ページに添えている手がしっとりと汗を纏う
指先に食い込んでくる紙

ジワジワと握り締められ、広辞苑の一枚がクシャリと小さな音を立て
皺寄った


「だから・・・後で又開け直すって・・・それじゃぁな、杏・・・」


ビリッ・・・っと音をたてて破けたページ・・・

電話を切り、リョーマに背を向けたまま携帯を置く桃城


「悪かったな越前・・・」

ガスッ!!


「・・・っ・・・・。」


何か言いかけた桃城


ソノからだがズルズルとベットに倒れこんでいく


桃城の後頭部をリョーマの持ったままだった広辞苑が捕えていた

高々と振り上げられた辞書
瞳一杯に涙を溜めたリョーマが勢い良く後頭部めがけて振り下ろした


張り詰めていた緊張の糸・・・


弾かれた様に切れた原因は、桃城の口から出た  名前・・・




垂れ込んだ桃城の体に馬乗りになり
リョーマはその手足を先ほどの電気コードでキツク縛る


ゆっくりと目を開けた桃城




ユルリと開かれた瞳が
自分の置かれている状況に気がついた

一瞬にして怒りの色を露わにした桃城の瞳






「馬鹿やろう!・・・越前何すんだょ・・・・・」

桃先輩の歪んだ表情が、馬乗りになっている俺の瞳に飛び込んでくる
動けない体を、捩りながら

だけど俺の感情なんて止まらない

止められるくらいだったら・・・
こんな事には成らなかったんだ






リョーマの両手が桃城の首に添えられる

「言いたいことがあったんだ・・・」

桃城の首に巻きついた細い指

「聞いてもらいたい事があったんだ・・・」

コロリと零れる 冷たい涙

ソノ表情に桃城は抵抗をやめ  静かにリョーマを見つめた





でも、もういい・・・
でも、もういいんだ・・・


言う前に返事を貰ってしまたから
聞かせてもらう前に・・・  現実を目の当たりにしてしまったから


「あんな桃先輩の顔・・・俺、見たこと無かった・・・」


指先が静かに静かに肌に食い込んでいく


「俺に向ける笑顔は・・・皆の見たことある顔だけだから・・・」


独り言の様に呟かれる言葉



そんなリョーマの表情に桃城は苦しそうな顔をしながらも
じっとその言葉を聞いていた・・・


「俺・・・桃先輩が好き・・・・」


リョーマの流した涙が  桃城の瞼に落ちる


落ちた涙が・・・  まるで桃城が流した涙の様に頬を伝った



霞んでいく視界

苦しい呼吸



ギリギリと閉められていく首に桃城は薄っすらと微笑む



そして瞳はゆっくりと閉じられた・・・





答えてやれない気持ちなら・・・
いっそ、このまま・・・





薄れいく意識の中で  桃城が思ったこと


リョーマに解る筈などない・・・


動かなくなった桃城の胸の上に、リョーマはゆっくりと倒れこみ
静かに流れる涙をソコに拭った




トクンッ・・・   トクンッ・・・




物悲しく響く鼓動に、リョーマの涙は止まらない

気を失っただけの桃城は・・・ 目覚めた時にはどこかに行ってしまうだろう




それならせめて今だけは




(あんたの体温を感じてたい・・・ )




そして静かに重ねた唇
これだけは俺が最初であったくれ・・・



リョーマはそう思わずには居られなかった



重ねられた唇から感じた体温
この唇が次に感じる体温は





俺のものじゃ  ないんだよね・・・







*END*






 *あとがき*

最近リクが無かったゆえ、掲示板でリクしてみませんか?っと呼びかけたところ、栢様がリクして下さいました☆有難う御座いますです。
リョ桃で、鬼畜な感じ…っとオーダー承ったのですが・・・如何だったでしょうか;
Hはどちらでもいいって事だったので、今回はあえて外してみたり・・・最後にチューだけ入れてみました。
せめてこの人のファーストキスだけは・・・そんなリョーマ君の切ない想いが、チョコッとでも皆様に伝わってくれたら嬉しいな・・・っと想う管理人です。
こんな理不尽なコトをされても、桃城君ならリョーマ君の気持ちを少しはさっして上げられるんじゃないかな・・・なんて思いながら書いた作品です。
初桃城君小説なんですよ。(僕達の想いにはチラッと登場しますが/笑)
そんなこんなで出来上がったこの作品。栢様に気に入っていただけたら嬉しいな・・・っと切実に思いながら、この辺であとがきは失礼させていただこう・・・っとおもう管理人です(爆

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