キリリク庭球小説

□【Thought】
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初夏の風が吹き抜けていくコート

軽快なボールのはずむ音
部員達の活気ある声が 高らかに空へと響く



この光景  何時までも忘れはしない



俺たちの思い出の中心が犇めき合う 大切な場所だから







 〜Thought〜







「声上げていけよー」


大石の声が高くコート内に響き渡る

コートの端に立ったまま、大石は一人部員達を見ていた。



そう  一人・・・

たった  一人・・・



何時もなら そこには手塚が居た

大石の隣には 何時だって部員達を見守る手塚が居た



こうして この場に立ち、部員達の出来をチェックする



時には言葉を交わし

時には  何時間も黙ったまま



しかし 今この場に立っているのは自分一人

横を向いても  そこに見慣れた姿は無い



視界に広がるコートの中

部員達は懸命にボールを追っている



誰の体からも汗が滲み 表情は真剣そのもの



ここに手塚が立っていた時は、部活中にふざけたりする奴も居た



でも・・・そんな姿は最近見られない



皆が皆・・・真剣だから・・・



絶対的な圧力を持って  注意してくれる者が
ここには  もう居ない事を皆が解っているからだろう・・・



注意してくれる者の存在が無ければ
それぞれに自覚する



『しっかりやらなければ・・・』

それぞれの胸に生まれた責任感



それを生んだのは・・・・  一つの約束




『全国へ行こう』





(手塚・・・お前の残した言葉が、部員達に成長をもたらした…)



小さな笑みを浮かべ 大石の視線が菊丸を見つけ、そこで止まった





好き勝手に動いていた、英二のプレイが変わってきた

何時でもボールしか見えていなかった英二が・・・周りの人を捕えている

練習中だって例外じゃない

下の子達を見る視野が広がったんだ・・・




その視線が 次に捕えたのは乾だった




コートの隅でなにやらメモっている様子の乾

初めは自分の為に撮り始めたはずの沢山のデータ

それをお前は何時からか仲間の為にと使い始めた・・・

一体そこにはどんな心境の変化があったんだ?

3年になり・・・ お前の表情が少し丸くなったこと・・・ 自分自身では気付いてないんだろうか





乾の視線の先には不二が居た。

河村を相手に練習を続けている不二。




不二の表情は何時だって穏やかだ

俺はどれだけあの表情に助けられただろう・・・

本当は強く熱い心を持ち

闘争心だって人一倍持っているくせに  そんなものは微塵も感じさせない不二

言葉の足りない俺を何時だってフォローしてくれるのも不二だ・・・

何時だっただろう・・・ 俺が皆と朝日を見に行こう・・・

そう言った事があった・・・

乗り気じゃなかった皆が、不二の一言で一緒に行ってくれた・・・

不二にはそういう力がある

でしゃばる事もせづ・・・何時だって必要な時に必要なフォローをしてくれる・・・





河村が打った少し強い打球が 不二の横をアウトコースですり抜けていった。

それに慌てたようにラケットを投げ不二に近寄る河村。


「御免不二、強く打ち過ぎちゃった・・・」

「平気・・・。別にボールが当たったわけじゃないし、気にしないで」

笑いあっている2人





何時も優しく皆を見ているタカさん・・・

そういえば、不動峰との試合の時相手の波動球から不二を守ったのもタカさんだったっけ・・・

ラケットを持っていない時のタカさんは穏やかに皆を見守っていてくれる

たまにバーニング状態で皆を困惑させてしまう事もあったりはするけど

それも試合前は士気を高める良い起爆剤だって俺は思ってる





そして大石の視線は隣のコートに向けられた

そこには桃城、海堂、越前が練習に励んでいる




文句を言いながらも互いに認め合っているように思うのは俺だけだろうか・・・


罵声をとばしあいながらも 懸命に練習に励んでいる桃城と海堂を見つめ大石は微笑む





この2人はまだまだ伸びる

同じ学年にライバルが居るというのは励みになる筈・・・

互いに認めているからこそ負けたくない

そんな戦い方を常にして・・・

お前達はこれからも成長していくだろう・・・





その隣でしゃがみ込み、2人の様子を食い入るように見ている越前

大石はその様子に小さく肩を竦めた





手塚・・・ お前の期待のルーキーは少々お疲れの様子だよ・・・

越前をランキング戦に参加させる・・・

初めてお前から聞いた時 俺は1年生だった頃の俺たちを思い出した・・・

入った当時から抜きに出ていた手塚

先輩達からの反感に毎日大変だったよな・・・

『チャンスは皆に平等に与える・・・』

あれは自分自身の経験から来たセリフだって俺は思った

期待通り勝ち上がってきた越前に君は満足しただろうか・・・




この素晴らしい仲間に囲まれて・・・ 俺は今幸せだと思ってる

でも・・・

手塚、お前が居ないのは  堪らなく不安だよ




俺は何時だってお前の補佐として頑張ってきた

だから自分自身で皆を引っ張っていく技量を持っているとは思えない・・・




毎日手探り状態

壁にぶつかる度にお前の姿を思い出すよ

こんな時手塚はどうして居ただろう・・・

こんな時は・・・お前ならどうする・・・




たった一度しかない中学校生活

出来る事なら悔いは残したくは無い・・・




そして守りたい・・・  手塚、お前と交わしたあの約束を・・・





「大石〜・・・」





不意に呼ばれた自分の名に大石は ハッっと我に返ったように顔を上げた

そこには練習メニューを終えたレギャラー全員の姿




「あっ・・・済まない。・・・ちょっと考え事を・・・」



苦笑いする大石に、菊丸が笑いながら言う。



「さっきからニヤニヤしたり難しい顔したり、何考えってたの〜?」

笑いながら言う菊丸に不二が微笑みながら言葉を挟んだ

「そうそう・・・何か面白い事でも思い出したのかな?」

クスクスッっと微笑む不二に桃城が続く

「思い出し笑いは、むっりスケベって言うッスよねぇ〜」

桃城の言葉に乾が眼鏡押し上げボソリと呟く

「昔からそう言うな・・・」

「そうなんスカ?」

それに尋ねるように海堂が聞き返した。



「ち、違っ!!」



慌てて否定しようとした大石に、河村が穏やかな口調で言葉を挟んだ



「でもさ・・・大石がそこに居てくれると、何か安心するよね。」

そんな言葉に少し小生意気な表情を浮かべ小さく笑い越前が言葉を続ける

「そうッスネ・・・まだまだって感じはしますけど・・・」





顔を見合わせて笑った皆

大石の心に温かなものが生まれる





「手塚と違って、大石だと見守られてる・・・って感じするもんにゃ〜」

そんな菊丸の言葉に桃城が笑いながら頷き

「言えてるッス・・・部長だと見張られてる・・・に近いッスからねぇ〜」

笑う皆
そして不二が口を開く

「今の言葉、僕が責任を持って手塚に伝えておくよ」

微笑み言う不二に、桃城が慌てふためき弁解に入ったのは言うまでも無い。





手塚が居なくなって不安じゃないはずが無い

それでも仲間は大石の存在に微笑み安堵する





なぁ、手塚・・・ 俺達はなんて恵まれているんだろう

手塚がいなくなった今

俺は一人で皆を纏めていかなくては・・・なんて少し焦っていたのかもしれないな・・・

手塚・・・ お前はそんな風に思ったことは無かったか?





俺は何を一人で頑張ろうとしていたんだろう

所詮お前と同じ様になど出来るはずが無いのに・・・

片肘を張り・・・ 周りを見失う所だったかもしれない・・・




こんなに大勢の信頼できる仲間が・・・ 俺の傍には居たというのに・・・







空にはこの上なく光り輝く太陽


燦々と皆を照らしている







今年が全国へのラストチャンス






きっと  これは神様からの贈り物なんだ






このメンバーで・・・ 最高の仲間で全国へ行けという

神様からの贈り物






手塚  お前の怪我にも、俺は意味があったと・・・そう思うよ


きっと君はドイツで大きなものを得てくると 俺は信じている





だから俺もぼやぼやなんてしてられない

今出来る俺の全てで

ここに居る大切な仲間達と


精一杯頑張りながらお前の帰りを待ってるから






「さぁ〜て、走りに行きますかぁ〜」


菊丸の呑気な口調に皆がロードワークに向かいだす。



「気合いれていけよ。」



笑顔で送り出し、一番後ろから走り出す大石



皆の背中を見つめて小さく笑った







最後に言った言葉は

きっと誰にでもなく  自分に行った言葉・・・







*END*








 *あとがき*

皆様こんにちは管理人の朱珠です。栢様からのリクエスト小説【Thought】如何でしたでしょうか。
『皆を見守る大石』っというオーダーだったのですが上手く複数登場させる…ッというのは中々難しいですネェ〜。今回は手塚君の居なくなっってしまった後の光景を書いて見ました。
手塚君事態カリスマ性のある部長さんだったゆえに、その後任を任された大石君はきっと大変なプレッシャーなんだろうな・・・っと。自分を見失いそうになった時、人は仲間の存在にいたく感謝したりするものではないでしょうか・・・なんて思い、書いた作品だったりします。(朱珠談/笑)
それではリクして頂いた栢様、本当に有難う御座います☆誰からもリクして頂けなかったら…っとちょっと不安だったものですから、その嬉しさも計り知れません♪
そして大石君事態、余り手がけた事のないキャラだったりするので新鮮でした。
でわでわ、こんな拙い作品ではありますが、朱珠なりに精一杯頑張って書かせていただいたので、受け取って頂けたら幸いかと・・・。
そしてここまで読んでくださった皆様、本当に有難う御座いました。
これに懲りず、又皆様が遊びに来てくださること、心より願っておりますです。

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