ギアス長編小説

□【雲間からさす光】★R18
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「必ず迎えに行く。だからそれまで…。…愛してる。ナナリー。」


薄暗いルルーシュの部屋。
静まり返り、時計の秒針しか聞こえてはこないその部屋のベットの上
ルルーシュは眉を潜め、苦しそうな顔を浮かべ眠っていた。

ベットに仰向けに横になり、眠っているルルーシュの傍らにはロロの姿。
ロロは心配気な面持ちでルルーシュをみつめていた。

エリア11の総督に就任したナナリーを奪還するために向かったルルーシュ。
その行く手をスザクに阻まれ、傷つきルルーシュは帰還した。

受けた傷は体よりも心の方が大きいようで、ロロはその傍らを一時も離れられないでいた。


苦しそうに喉を鳴らすルルーシュを見つめながら、ロロはそっと手を伸ばす。
布団の上に投げ出すように置かれたルルーシュの手。

そっと…握って良いものかと少々困惑した面持ちで、ロロはルルーシュの手に自分の手を重ねようとしたその時…

「…ナナリー…」

その瞬間、ロロの耳に聞こえてきた名前。
ピクリと止まる手。
(…兄さん…)

瞬間、ロロはルルーシュの手を握ってはいけないようなきがして自分の手を布団の上にと下ろした。

「・・・・・。」

その後、目を覚ましたルルーシュに「何か言っていたか?」と問われたロロは「何も…」そう嘘をつくしか出来ないでいた。



ルルーシュの気持ちが自分に向いていないことなど解っている。
解っていても、目の当たりにすれば心の中がモヤモヤとした気持ちの悪いもので覆われ
その度に、自分がうまく笑えなくなってきている事をロロは感じていた。



ルルーシュの部屋を一人離れ、廊下に出ると暗い窓の外を眺めるロロ。
(兄さんが記憶を取り戻す前は…楽しかったな…)

もしも、ルルーシュが記憶を取り戻すことなく、あのまま過ごしていたら…
ロロはそんな、もぅ起こりえない平和だった日々を思い返しため息をついた。

でも…あれは偽物…。
心のどこかがキュっと軋むような感覚に苛まれる。
(…でも、今も偽物…)

窓に向けていた瞳を、振り返りながらルルーシュの部屋の扉へと向けるとロロはそっと扉に手を当てた。
(偽物が辛いなら…本物にすれば良い…)

思いながら、それがどれほど難しい事なのかを噛みしめてしまいロロは小さく息を吐く。







ナナリーがエリア11の総督に任じられた報道の流れたその日
ルルーシュは覚束無い足取りで何かから逃げるようにモノレールへと乗り込んだ。

人々の話声の中、揺れる車内に木霊する雑踏の中
ルルーシュは耳に音を入れることを拒むかのように下を向きナナリーの事を思い出していた。

「…ナナリーが望む世界…。ナナリーが望む明日…。」



ナナリーの為に始めた戦争。
ナナリーの為につくり上げたゼロ。
ナナリーの為に作ろうとした世界。
ナナリーの為…
ナナリーの…



それなのに自分がいてはナナリーの邪魔になってしまう。
自分がいるが故…ゼロが存在するが故、エリア11に平穏な日など…。

「皆さん初めまして。私はブリタニア皇位継承第87位ナナリー・ヴィ・ブリタニアです。」

突如車内に聞こえてきだしたナナリーの声。
虚ろだった瞳を見上げれば、そこには総督就任の挨拶の録画映像。

「私は行政特区日本を再建したいと思っています。
嘗て特区日本では不幸な行き違いがありましたが、目指すところは間違っていないと思います。
等しく優しい世界を…。
互いに過ちを認めれば、きっとやり直せる…私はそう信じています。」


『優しい世界でありますように・・・』


脳裏に思い出されるナナリーの笑顔…
穏やかな声…


ルルーシュは堪らなく自分が汚れたもののような感覚に耐え切れず、逃げるようにモノレールを降り、気づけば新宿再開発地区に立っていた。
来る途中絡まれたイレブンから巻き上げたリフレインを片手に積みおかれた鉄筋に腰を下ろす。

…これを打てば母さんにあえるだろうか
…これを打てば元気だった頃のナナリーにも会える
……スザクの笑顔にも…

袖をまくり日に焼けていない自分の素肌に目を落とすと細い溜息が零れた。

…俺の存在価値…
…もぅ、ここには必要ない…

独り言を言う気力もなくルルーシュはリフレインの引き金を引こうとした…その時…
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