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□せっけん。
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無い。
汗でベタついた体を流そうと、浴室に入ったのが数分前。
一糸纏わぬ姿になってから気付いてしまった。
体の油を落とそうにも、落とすための石鹸が無い。
そういえば、キッチンの倉庫に買い置きがあった筈だ。
だが、全裸の上、髪を濡らしてしまった。
そんな状況でシキに物を頼むなど、どんな目に遇うかは安易に想像できる。
どうしたものかと考える。
キッチンに行くにはシキの居るリビングを通らなければならない。
幸運な事に、浴室とリビングを通じているドアはシキが座っているであろうソファーの逆の向き在る。
だから顔を合わせる事も無いだろう。
考えているだけでは石鹸は手に入らない。
何よりこのままでは風邪を引いてしまう。そうなるとあの男に散々馬鹿にされるだろう。
其れだけは絶対に避けたい。
心を決めて洗面台にあるタオルで軽く体を拭き、腰に巻き付ける。
雫が髪から体を伝い、滴り落ち足下を濡らしていく。
顔をしかめながら、頭だけドアから出し、シキの様子を窺う。
ソファーから動かない所を見ると、何か本でも読んでいるのだろう。
こっちを見るなと言わない限り(絶対に見てくるので)この様子だと大丈夫そうだ。