書斎

□A cup of coffee.
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二つのカップと皿に持ったお土産のクッキーをトレイに乗せ、テーブルに向かう。

「お待たせ…味は保証しないけどね」

コト、と置いたカップに、彼は迷わず手を伸ばしてきた。

「いえ、有難うございます、ベルさん」

女の子ならメロメロになりそうな甘い笑みを、私に向けたって仕方ないだろうに。

「あ、お砂糖貰うよ」

なるべく彼の顔を見ないように視線を落とし、シュガーポットから山盛り三杯の砂糖をカップに入れる。

子供みたいだが、スコットランド出身の私はコーヒーの苦みに慣れていない為、こうでもしないと飲めないのだ。

砂糖でザラザラするコーヒーをスプーンで掻き回していると、正面でワトソン君が笑う気配がする。

「相変わらず、コーヒー駄目なんですね」

「あ、うん…ごめん」

私とは対照的にブラックのコーヒーを涼しい顔で飲む彼は、凄くスマートだ。

「ベルさんの為に紅茶置いといた方が良いですね。あ、でも…僕、全然分からないので、ベルさんも一緒に買いに行ってくれますか」

「え…?」

私の為に…?

どこまで優しいんだ、ワトソン君…。

何だか涙腺が崩壊しそうじゃないか。

「べ、別に良いよ…」

「いえ、これからはもっとベルさんに遊びに来て頂きたいので…今度、一緒に買い物に行きましょうね」

「迷惑じゃないかい?」

「迷惑なんて、とんでもない。それに僕、ベルさんの入れる紅茶凄く好きなんです」

どうやらギリギリ及第点らしいコーヒーを少しずつ口に運びつつ、照れ臭そうに笑う。

どうしよう、頬が熱い。顔が上げられない。

「…ということで、お願いしますね?ベルさん」

「わ、私で良ければ…いつでも君の為に紅茶を入れるよ…」

言ってしまってから、何だか妙に気恥ずかしくなる。

「何だか、お嫁に来てくれるみたいですね」

これがアメリカンジョークなんだろうか、上手いかわし方が分からず、誤魔化すようにコーヒーを一口含む。

砂糖の甘さに負けない強い苦みが鼻まで抜けて、目眩がした。

「君も冗談なんて言うんだね…」

「冗談じゃないって言ったら、どうします?」

思いもよらぬ言葉に、え?と顔を上げれば、普段とは違い悪戯を企む子供のような意地の悪い笑みとかち合った。





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