君と記憶を抱いて

□君と走り出せば
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「ねぇ、ザジ?」

ハチノスのロビーで
ソファーに座ってぼーっとしていた彼を呼ぶ。

「んぉ?」

寝ぼけてる返事。

「配達だよ?」

さっき副館長から渡された配達の詳細が書いてある紙をピラピラさせる。

「ん、サンキュ。」
「んっ。」

ザジが私にキスをする。

「どういたしまして。」

ニコッと彼にほほ笑みかければほほ笑み返してくる。

「おっしゃ、行くか。」

伸びをしながら立ち上がった彼のそばに立つ。

「うん。」

「ほら、ルミ。」

ザジが私のほうに左手を出す。

「ん。」

しっかりとつながれた手からぬくもりが伝わる。
そこに存在するって感じられるよ。
あったかい・・・










アンバーグラウンドという夜があけることのない国がある・・・

彼らは国家公務配達員BEE・・・
通称、テガミバチ。

テガミバチたちは相棒であるディンゴと共に
旅をしてテガミを配達する。

暗闇に潜む鎧虫という危険な生き物と戦いながら。

そう、どんな危険も問わず、テガミを配達する、
それこそがテガミバチの仕事・・・










「今回の配達ルートは鎧虫がでるかもしんねぇから、気をつけろよ。」

配達ルートを確認しながら歩く。

「分かってるよ!ザジこそ眠いからってふらふらしないでよ〜?」

っていうか今もすでにふらふらだし・・・。

「大丈夫だっつーの!」

いや、大丈夫じゃないでしょ。
・・・ってかヴァシュカまでふらふら!?

そんなのだから、
いつも肝心なところで失敗するんだよ。

そっと、少し強く握って
もう一度その存在を確かめた。

* * *

「ん、町が見えてきたぜ。」

しばらく鎧虫にも遭わずに歩き続けた。

ザジが指をさした所をみると確かに町が見えている。

「あそこが配達先?」
「みたいだな。」

配達用紙を確認する。

「ふ〜ん。」
「・・・よっしゃ、走るか!」

そう言って手を離して突然走り出す。

「あ、ちょっと待ってよ!」
「追いついてみろよ〜!」

意地悪く笑うザジ。
・・・イジワル。

「それじゃぁ、本気出しちゃうもんね〜!」

ビュンッという風をきる音がしてザジが後ろになる。

「え?ルミ、お前そんなに速かったっけ!?」

ザジがあっけにとられた顔をする。

「ふふん!あったりまえ!」

私は自信満々。

「なら、オレも本気出すか!」

ザジが今度はニヤッと不敵に笑った。

「え!?まだ出してなかったの!?」

あれでも十分速いのに!

「ほらほら!おせーぞ〜」

あっという間に追い抜かされてしまった。

早いーーーっっ!!

「ちょ、ちょっとぉ〜!」
「ったく、あんぐらいで勝ったと思ってんじゃねーぞ!」

ニシシと笑う彼に頬を膨らませる事しか出来ない。

「むぅ・・・。」
「っと、ここが配達先だ。」

ザジが一つの家の前で止まった。



君と走り出せば
(風を切る音が聞こえてきた)



→あとがき

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