短編

□振り向いて
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私は小さい頃から彼に恋をしていた。彼はとても面白くてパワフルな人。だけどそれだけじゃなくって、凄く、凄く優しい人。


そんな彼は一年程前に失恋してしまったみたいで、私は自分の気持ちを隠したまま彼のそばで元気付けていた。


弱みにつけこんで傍に居るなんて、ずるいでしょ?でも好きなんだもの。だけど好きな人が悲しむ姿なんて見たくない。だから応援したり、励ましたりするの。


「 名無しさんはさぁ、優しすぎるよね」


今日も二人、公園でのんびりとしていればふと投げられた言葉。ブランコをゆっくりとこぐ私と、ぐわんぐわん回る十四松。そんな十四松はキィと鉄が擦り合う音をたてながらゆっくり速度を落とした。


「優しい?私が??」


優しいのは十四松でしょ。と笑えば彼は困ったように笑った。速度が落ちて止まったブランコにお尻をつけて座る十四松はこちらをみていた。


「もう、ボクは大丈夫!!」



時間が止まった気がした。大丈夫なんて言われたらそばでは居られない。でも、立ち直れたんだね。笑って過ごせるようになったんだね。


「よかった。十四松には笑顔が一番似合ってるよ」


傍にいたい。好きなんだもの。もう少しでいいから。傍に居させて。


そんな本心は心のずっとずっと奥に隠して必死に笑顔を作る。笑えているかな、鼻の奥がつんとして今にも涙が溢れてしまいそうだ。


「今日はもう帰るね!じゃあね!十四松!!」


涙が落ちてしまう前に彼の前から離れなくては。優しい彼の事だからきっと心配させてしまう。


背を向けて歩き出せば不意に訪れた温かな体温。後ろから回された腕が私の前に組まれていて。黄色いパーカーの伸びきった服を着るなんて彼しか居なくて。


「嘘ついた。本当は全然大丈夫じゃないんだ。」


なんだ。まだ好きなんだね。あの子の事が。


「ボクは名無しさんが好きなんだよね」


「え」


ぎゅっと抱き締められる腕に力が入って。肩口に顔がうずめられた。訳が分からなくて動揺していれば彼はぽつりと名前を呼ぶ。


「辛い時にいっつも助けてくれるのは名無しさんだった。楽しい時も悲しい時もいつも傍に居てくれた。そんなの好きになるに決まってんじゃん!!」



「だからさ!傍にいてくんない!!?」



ー振り向けばそこにはー


(待たせてごめん!!!待っててくれてありがとございマッスルゥマッスルゥ!!)

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