短編

□心の傷を癒す魔法
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惚れたら負け、誰かがそう言っていたような気がする。私が好きになった人は六つ子の1人。元気で明るくて傍に居ると暖かい太陽のような人だった。


けれどもその人は私には全然振り向いてくれなくて。 いつも素っ頓狂な事ばかり。でもそれがいつも可笑しくて、楽しくて。居心地の良い時間がこのまま続くのなら自分の気持ちを隠そうと思った。


「名無しさん」


不意に名前を呼ばれて、そちらを見れば大好きな彼…ではなかった。彼の兄弟。次男のカラ松。顔や背丈は六つ子だからか凄く似ていて一瞬では区別が付きにくい。


「カラ松、どうかした??」


近づいてくるカラ松にそう尋ねれば、いつも格好付けの彼が眉を下げてこちらに手を伸ばした。驚いて目を閉じるとふわりと包み込まれる。何かと目を開けばそこにはカラ松の胸があって、背中に回された腕に力が入っていた。


「俺では、駄目なのか?」


切なく漏れた言葉に動揺が隠せなくて慌てふためく。


「カラ松?どうしたの?変なものでも食べたの?」


こんな事言えば何時もの彼なら妙な言葉を返してくる筈なのに今日は違った。「食べてないさ」と。


「俺は、お前を悲しませたりしない。ましてや一人で泣かせたりしない」


「え?」


知らず知らずに頬を伝っていたのは涙だった。あれ?どうして、泣いているのだろう。


どうして、カラ松に抱き締められているの?この腕じゃない。私が欲しいのは違う温もりなのに。


「カラ松にーさん。なにやってんの?名無しさんから離れてくんない?」


振り向けば会い焦がれていた彼がいて。黄色いパーカーは走ってここまで来たのか少しよれていた。


そんな彼がいつもとは違う声色でカラ松に話しかける。その声はどこか怒りを含んでいて空気がぴりりと揺れた気がした。


「遅すぎるぜ?十四松。ここらで俺はお役御免だ」


あばよ、と私から離れたカラ松は背を向けてどこかへ行ってしまった。


「え?なに、どうい」


どういうこと。と言葉をつなげようとすれば前からの緩やかな衝撃。なに、と驚いていればそれは十四松が抱きついていると理解できて。


「にいさんに、とられるかと思った。」


「とるも何も、私は十四松のものでもないでしょ?」


自嘲気味にでた言葉は皮肉にも的を得ていて。自分で言って悲しくなってしまう。


「じゃあさ、僕だけのものになって。ずっと好きだったんだ。今でも。にいさんなんかにやるもんか」



ー太陽に恋した彼女はー


(私も、大好き)

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