短編

□春のはじまり
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いつも元気な十四松にも苦手なものはあるみたい。


「クソさみぃ」


布団と周りの服をぐるぐる体に巻き込んでストーブの前で転がっている様は何とも言えない。


「十四松、燃えちゃうよ?」


ストーブと十四松との距離は近すぎて本当に燃えてしまいそう。離れるように促せども彼は動こうとしない。


「寒い。ほんとに寒い。」


「今つけたばっかりだからね」


そう。さっきストーブをつけたのだ。だから部屋はまだ冷りとした空気で、私はこたつに入っているわけだけどまだまだ寒い。


寒さに弱い十四松はすこぶる機嫌が悪い。いつもの大きな声も出さないし、俊敏で素っ頓狂な動きや発言さえもない。


こうなってしまうと彼はくるまった布団から当分出てこない。残念。せっかく十四松に会いに来たのに。


「名無しさん」


「なに?」


寝ているものだと思っていた彼から不意に名前を呼ばれて驚く。どうしたのかとそう言えば、ストーブの方を向いていた彼の体がぐりんとこちらに向けられる。


「はい、おいで」


布団にくるまったまま十四松は両腕を広げる。おいで、なんて言われたものだからくすりと笑ってしまう。


こたつからのそりとでてそちらの方に向かう。そして彼の胸に飛び込めば広がっていた両腕は布団と共に私を包み込んだ。


「あったかいね!」


少し上を見ただけで彼の顔があって、至極嬉しそうに笑う十四松に顔が熱を帯びる。


「そうだね」


どきどき、跳ねる心臓の音がやけに煩くて。十四松に私の気持ちがバレてしまわないかと冷や冷やものだ。


誰にでも優しい彼だから、寄せられてる好意は少なくなくて。そんな中でも私に会ってくれる十四松に少しだけ期待を持ってしまう。


少しだけ。少しだけでもいいから好きになってくれないかな?なんて自分の本音は隠して彼にぎゅうっと抱きついてみた。


「やっべぇ!俺の心臓、うるさいね!」


カラッと笑う彼の頬がやけに赤くて。回された腕に優しく力が込められた。彼の顔が首もとに沈んでいった。


「ずっと、こうだったらいいなあ」


ふと、出てしまった言葉にどきりとする。彼に聞こえてしまっただろう私の本音はきっと彼には重いもので、彼もぴくりと固まってしまう。


「ごめん、ごめんね!ちがうの」


弁解しようと慌てれば彼はぱっと顔をあげた。


「好きだよ!俺は!すっげぇ好き」


開いた目が閉じなくて、彼の言葉に驚く。うそ、知らなかった。困った。すごく、すごく嬉しくて頬が緩んでしまう。


「ごめん、私も大好き 」


力いっぱい抱き締めれば返ってくる力があって。幸せでたまらなくなった。


ー同じ気持ちー


(あったけー)

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