短編
□長男だから
1ページ/1ページ
六人兄弟の長男。松野家の長男がこの俺、おそ松。六つ子で弟達が五人も居るもんだから家はいつも騒騒しい。まぁ静かな時もあるけど。
五人も居れば色々とあるわけ。誰と誰が喧嘩しただの、誰かが怪我しただの…誰かが恋しただの。
「行ってくるぜマイブラザー。」
グラサン越しに見えたそいつの目はきらりと光る。どこに行くのかと聞かずとも分かるのは俺だから。弟達の小さな変化も見逃さない。だってそれが兄貴だろ?
「へいへい。いってらっしゃーい」
そう言ってシッシッと手で追いやる。するとカラ松はふすまを閉めて出かけていった。
外を見ればそれはそれはいい天気で、家の中に居るのは勿体無い程だ。
「俺も、会いてぇなあ」
頭に浮かぶのは想いを寄せているアイツの顔。馬鹿な事をする俺を怒って叱って、それでいて笑いながら傍に居てくれるアイツ。
そんなそいつはきっと今頃カラ松と居るのだろう。楽しく、笑い合いながら。カラ松みたいな奴の傍に平気で居れるのなんてアイツは馬鹿でお人好しなんだと思う。
そんなお人好しを好きなのはカラ松も、俺も、同じな訳で。きっと、他の兄弟達も同じ気持ちを抱いて居るのだろう。
長男だから、分かっちまうんだよ。お前らが好きな奴の事くらい。だけどな、俺は兄ちゃんだから応援してやるよ。
「おそ松ーーー??いるんでしょー?」
出てきて!と俺を呼ぶ声にどきりと胸が跳ねる。その声はずっと俺が聞きたかった声。
ばたばたと彼女の方へ向かえば彼女は玄関にいて、目が合うとお前は花が咲くように優しく笑った。
「なんでいるんだよ」
カラ松とデートじゃねーのかよ
胸の奥がチクリと痛む。いいんだ、この気持ちは。いらないものだ。痛むな、俺の心臓。
「カラ松?知らないけど??」
なんだ。カラ松は名無しさんに会いに行ったんじゃないのか。ホッとしてしまう心臓に嫌気がさす。
「で?何しにきたわけ?みんな居ねーよ?」
そう言えば彼女はそうなんだ、と驚く。まぁ六人もいれば誰かしら家に居るからな、ニートだし。
「用があったのはおそ松にだけどね」
にししと笑う様は俺の真似なのか。下手くそ、と笑えばムッとむくれてしまう彼女。くそ、可愛いじゃねーか。
「で?用は?」
「顔を!見たくて!来ちゃいました!」
それだけ!と笑った彼女がやけに可愛いくて。顔に熱が集中して熱くなるのが分かる。そんなこと言われたら、期待してしまうだろうが。
「たまにはさ、一緒に遊びに行かない?天気もいいしさっ」
照れた素振りで誘う彼女は誰を思っているのだろう。誰を好きなのだろう。俺だったら嬉しいな。そんなこと絶対ねーけど。
「しかたねーなあ!付き合ってやるよ!」
いつか、こいつは誰かの物になってしまう。その時まで少しだけでいーからさ、一緒に居させてくれてもいーだろ?神様。
ー気持ちを隠して君を想うー
(おそ松兄さんはほんとに鈍感だよねえ!そう思わない?十四松兄さん!)
(だよね!!)