短編

□おもたいもの
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「おーい?大丈夫かー?」


仕事帰りのコンビニでぼんやりとしていれば不意に声をかけられる。その声に驚いてそちらに視線を向ければそこにはおそ松がいた。


彼とは知り合い。このコンビニで何度も顔を合わせる度に普通に会話するようになっていた。


「びっくりしたでしょ、おそ松」


「いや、俺何回も声かけてたよ?なのにお前っていう奴はシカト決めこむじゃん?そうとなれば、こっちも意地になるわけよ 」


彼の存在に気づかなかった。ましてや声をかけられているともつゆ知らず。ただただ意識が無になっていた。


それもこれも、仕事の事を考えていたせい。最近仕事が忙しい上に責任のある事を任せられ少々参っていた所だったのだ。


「シカトしてないよ。ただ、ぼーっとしてただけ」


そう言って笑えば彼は私の手を引いてコンビニを後にする。どこに行くのかと問えば、もう着く、と。


着いた場所は静かな公園。もう夜が深まった時間だから子供、ましてや大人さえもいない。


街頭がぽつりと1つだけ光が点っていて、それがやけに心を落ち着かせた。引かれていた手が離されて2人並んでベンチに座る。


「なんか、あった?」


彼の真摯な目と言葉にどきりとした。


「なにも、ないよ 」


何もないなんて、嘘。本当は仕事が凄く辛い。慣れてきたと思えば責任の、ある仕事を任された。皆に期待されるから応えようと頑張るものの上手く行かなくて。


ただただ自分の情けなさに心がやられてしまいそうだったのだ。期待に応えたい。でも応えられない。重たい責任に押し潰されそうになる。逃げだしたい。でもそんなこと言って幻滅されたくない。


色んな感情が胸の中をどろどろと巡っていて。でも、誰にも話せなくて。こんな自分がみっともなくて。深い深い闇に吸い込まれてしまいそうだった。


「何があったかは知らねーけどさあ、お前は、お前だろ?どんな名無しさんでも俺は好きだぜ?」


ぽんぽん、と私の頭を撫でる彼の手がやけに優しくて、今まで堪えていたものが目から溢れ出す。ほとほとと膝に落ちる涙が、止まらなくて。私がずっと欲しかった言葉をくれた彼。


努力しても、どれだけ頑張っても出来ない事もあって。それでも見放さないで、それが私だって、認めて欲しかった。必要とされたかった。


「がんばる、ありがとう。」


「無理だけはするなよ?」


にっこり笑った彼は手を振って帰っていく。頑張れる。心にあった霧がはれたきがした。


ー勇気をくれる君ー


(コンビニに行くのは、君に会いたいから)

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