殴り書き
□☆fragrant olive
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「…なんだ、煙草でも変えたのか?」
執務室に入るなりかけられた声。
「は?なんのことっスか…?」
当の本人はその言葉が理解できず追加分の書類を机に置いて小首を傾げる。
「いや…違うな、この甘ったるい匂いは‥金木犀か」
「金木犀…‥あぁ」
その言葉に思うところがあったのか、机に座るようにもたれかかり自分の腕を鼻に近付けた。
「…本当だ、微かに匂う‥」
一人呟き新しい煙草をくわえ火をつける。
煙を肺一杯に吸い込んだ後思うことがあったのかふ、と顔を上げた。
「しかしよくわかりましたね」
こんな微妙な匂い、と付け加え首だけロイの方を向く。
「独特の香りだからな。…それに」
椅子から立ち上がりハボックへと腕を伸ばす。
まだ長い煙草を奪い取るとそのまま机越しに口付けた。
「――…んんッ?!ふ、は‥っ」
散々口内で遊ばれた後ぴちゃ‥と水音を残し唇を離され思わず赤面するハボックの間近に、楽しそうに笑むロイの顔があった。
「お前のことならなんでも解るさ」
まだ赤面し惚けたハボックの口元へと煙草を戻し、ロイは何事もなかったかのように椅子に座り再び書類を片付け始めた。
「…‥っよくもそんな恥ずかしいこと言えますね」
「ジャンにしか言わんさ」
「……あんたって人は…」
ハボックはがくりとうなだれる。
少々嫌味を込めて言ったつもりが倍返しを食らった。
「なんなら私も金木犀の匂いをつけて、お揃いにするか?」
「…死んでもごめんっス」
とは言いつつもそれもいいかも知れない、と思う自分に重症だと自覚するハボックだった。
end