青の祓魔師長編『Ombre Anje』
□紀元
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その日の夜は、随分とこの世が青く輝いていた。
世界が、おぞましくも一つになった夜であった。
フランスの“聖なる山”として知られる、モン・サン・ミシェル。
ここも先程までは、青の炎が光り耀いていた。
人の、
有能と讃えられた幾人もの聖職者達の命を火種として、その聖地を、サタンの象徴である青い火で侵した。
当然人々は恐怖と混乱で阿鼻叫喚を創りだす。
今の今まで神への祈りを唱えていた、神に仕える優しい者達が、
目から、口から、鼻から、耳から、
身体中の穴という穴から突然青い炎を噴き出し、最後は赤い血に塗れて絶命していったのだ。
聖者には屈辱とも言えよう、殉職とは程遠い無惨で悪夢のような最期。
───…モン・サン・ミシェルの山頂地にある、尖塔がそびえ立つ白い石造りの小さな教会は、灯りを一つも点さずにいた。
教壇の奥の壁に飾られた、巨大なステンドグラスから真っ直ぐ射し込んで来る月光が、唯一の光源だった。
青白い光に己の色をのせ、硝子の集合体は静かに教壇を彩る。
その教壇の上で、様々な色の光を浴びながら赤ん坊が1人、天井に向けて産声を上げていた。
擦れた泣き声は、ゴシック式の高い壁に反響し、ぐわんぐわんと低く唸りを起こさせた。
毛布に包まれているものの、飛び出した裸の腕だけは必死に空を彷徨う。
赤ん坊が腕を振るたび、両手の平に着いた大量の血が小さく飛び散った。
更にその赤ん坊の周りを、何人もの修道女や神父がズラリと囲み、両手を組んで賛美歌を贈っていた。
ほとんど泣き腫らした目で、聖歌を唄う声も若干震えて上ずっている。
中には、赤ん坊のせいでか、顔に点々と撥ね血が付いている者もいた。
しかし、その顔には確かに穏やかな、安らぎの笑みがあった。
目前の泣きじゃくる赤子へ、愛情に、そしてどこか尊敬と崇拝に似た、うっとりとした眼差しを向ける大人達。
自分達の背後に転がる血みどろの死体達には目もくれず、ただただ生を受けた新たな命に、熱心に賛美歌を捧げ続けていた。
「ご機嫌よう!!」
静かな講堂に喧しく鳴り響いた、この高らかな声を聞くまでは。
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