銀色少女

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とある朝。


体に違和感を感じた。横で寝ているツナくんが冷たくて気持ちいい。同時に自分の体は火照っている事に気付いた。


立ち上がってみるがダルさで足がおぼつかない。


『……熱か…』


しかも、それなりに高熱だ。


馬鹿は風邪をひかないと言うが、あれは嘘だ。馬鹿は風邪をひいても気付かないだけだ。
奈々さんに言えば、「まぁ!大変!」とワタワタしながら薬を買いに行った。


『ケホッ…ケホッ…!』


あぁー…咳まで出てきた…。
頭が重くて、何も考えたくない。


ツナを幼稚園に送る時間になり、奈々さんはツナくんを連れていこうとするが…


「ツっくん!ユっちゃんはお熱があるから……」


「イヤだよ!ボク…ユっちゃんと一緒にいるんだ!」


私の手を離さないツナくん。
この子は私の熱を上げたいのか…可愛すぎるだろ。


「ユっちゃん、痛い?えらい?」


『うんん、ツナくんが心配してくれたから……大丈夫だよ?』



誰かに付いていて貰えるのはとても素敵な事なんだね…。


奈々さんの説得でツナくんは幼稚園に行く決意をした。


「…すぐに帰ってくるからね?」

『ぅん…ゲホッ……いっでらっじゃい…』


喉もやられた。
2人が居なくなった家は静かだ。


苦い思い出が脳裏に浮かぶ。
1人で住んでいた部屋。
帰ってこない両親。


慣れは自分を殺す事を知った。


殺して殺して、殺して、押し殺して、やっと無くなった気持ち…
『寂しい』『悲しい』


手に入れた気持ち
『強さ』『我慢』


『ハァ…ハァ…』


心臓が熱い…体が熱をうまく出せない…


私の意識は遠く遠く…落ちていった。








『ここは…』


知らない白い世界。
真っ白。


「やっと会えた…」


『………っ…?』


声の方を振り向いていたのは、女性…それも見覚えのある顔。少し老けた私?



「よかった…貴女には言わなくてはいけない事があったの…」


『いや…ちょっ…は?』


自分じゃない。それはハッキリわかる。私はこんな優雅に笑わないし…こんなに女性らしくない。
だけど、別人には思えなかった。

『貴女は…』


「私は、アーチよ。貴女の前世よ」


この女性が前世?
夢なら早くさめてくれ。


『…私の先祖は虹華 夕映だ…アンタじゃない。』


そう、私の前世は虹華 夕映。
私は死んだからここにいて沢田 夕映となっているんだ。
彼女の言っている嘘は確実だ。


「…私は、虹華 夕映に言っているのよ?」



『…ここにいるのは沢田 夕映だ』



「いえ…沢田 夕映は存在しないわ。だって…――――――ですもの…」



『…………な…にを…っ』



アーチが言った言葉は…私の心臓を大きく揺らした。
その後、アーチは微笑んで消えていった…。








『ハァ…ハァ…!』


飛び起きた。
見慣れたベットに…汗で濡れた枕。夢…?未来見?どれも違う。
なんなんだ一体…。



「いえ…沢田 夕映は存在しないわ。だって…虹華 夕映は生きているのですもの…」



『…私は…死んで……ない?』


じゃあ、沢田 夕映はなんなんだ?私は何なんだ?



疑問は熱と一緒に頭の中を混乱させた…



『もう…何も考えたくないよ…』


疲れたよ…。今まで…何かに操られたように生きてきて、理不尽な死に方をしたはずなのに…戻れないならと心に決めた筈なのに…。

今更…


『ふっ……ぅ…くそぉ…!くそぉ!!!』



拳は力なくベットに落ちる。
涙が出た。熱で感情のコントロールができない…と言う事にしておこう。流れる涙…。
止まらない、止めようとは思わない。




私が一体…何をしたって言うんだ。





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