やさしい死神

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思わず目を見開く。
そして、それを凝視した。


12、3歳くらいだろうか。
研究所の奥から現れたのは、小さな少女だった。

黒い癖のない長髪に、不思議な色彩の大きな瞳。
こっちの視線にまるで気付いていないかの様に、ふらふらと覚束ない足取りで歩いて来る。
着ている白いワンピースの様な服が、血飛沫で汚れる事も気にしていない。
面白くなってそのまま少し観察した。
一体この子は何をするつもりなのか。


『………っ、』


びしゃ、と。
そんな重々しい水音と共にまた血の海は広がりを見せた。
足元にあった死骸に、少女が足を取られ転んだからだ。
瞬く間に彼女は血で紅く染まった。
そこでやっと彼女は、自分の周囲を見渡して今の状況を確認した。

自分は生き残りである、と。
そう自覚するのに時間はあまり要しない筈。

面白い子だ、とは思う。
先程まで、このボクが気付かない程に完璧に気配を消していたのだから。
とても普通の子供に出来る所作ではない。
だがこうしてのこのこと姿を現してしまうようでは失望だ。
機会を見付けて逃げ切るか、はたまた襲い掛かってくるくらいの抵抗が欲しい。

さて、君はこの後どうする?
そんな期待の眼差しを、近付いて少女の眼前にしゃがみ込んで彼女に向ける。
血に濡れた小さな両手を見つめるその双眸は呆然としている。
逃げるか、泣き喚くか。
それとも怒りにその瞳を歪ませて襲ってくるか?
どの反応も酷く滑稽で、幼稚だ。
一思いに殺して上げれるくらいに。


「…ねぇ、」


カードを構えてにっこりと笑う。
やっと彼女はこちらを見た。


「何か言ったらどうだい?」


囁く様に促せば、少女は二、三度瞬きをする。
その表情にまるで変化はない。
状況が分かっていないのかもしれない。
見た目よりもおつむは幼いのかも。
拍子抜けだ。

目の前で小さく溜息。
すると今度は少女が首を傾げた。
真っ直ぐと注視してくるガラス玉の様な双眸。
あまりにも色鮮やかで、蠱惑的に光るものだから一瞬それが人形のものの様に見えた。





『殺さないの?』






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