イケナイ女

□ミワクノ女
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ボクは世間一般論というヤツには大して興味は無い。

常識は知っているけれどそれに従うつもりは無い。
モラルなんて大袈裟なものに縛られるつもりも無い。
ボクはボクの思う通りに生きている。
今までもそうだがきっとこれからもそうだ。
だからもしかすると気が向いて至極真っ当な事をやり出す可能性も無くは無い。
気紛れとして。
まぁ暇潰し程度なんだろうから直ぐに飽きて止めるのだろうけれど。
おママゴトだなんて男の子が長いごと遊んでいられる訳がないだろう?
もしボクが女の子だったら、まぁ結構、それなりに長続きはしそうだけど。
君を見てればそれくらいの憶測は自然て付くしね。

さて、話を戻すケド。
ねぇどうしてこのボクが所謂道徳観の話をしていると思う?
こんなに真面目な事をボクが言い出すだなんて珍しい事だ。
君だってそう思っているんだろう?
こんな事を切々と…はしてないながらも語るボクを君は知らなかっただろうに。
そんなボクに何処か面白そうに目を細める君は、それなりに上機嫌みたいだね。
ああそういえば仕事が一段落着いたんだっけ。


『人の事を言う気は無いけれど、貴方って脈絡の無い話好きよね』


甘い、この目の前のドルチェの様な蕩けた声音が耳朶を撫でる。
ふわりとウェーブ掛かった明るい金の長髪が彼女の手が動く度に揺れる。
優しい印象の垂れ目気味の緑の双眸は何だかお人形みたいなドーリーフェイスだ。
上品にスプーンを小さな口に運ぶ彼女にボクはそうだね、と返した。
そういえば此処は高級レストランの一角だった。
久し振りに会う彼女に連れて来て貰ったんだった。


『それで? どうして急にそんな話を?』
「うーん、何と無く、かな◆」
『そうよね。深い意味で言うなら貴方はもっとおどけて言うもの』


照れ隠しにね、と可憐な笑顔と一緒に付け足す彼女。
うん、敵わない。
いつまで経っても彼女には勝てる気がしない。
嘘は付けない。
元々付く気もなかったけれど。
それでもそれらしい事を言って彼女を驚かせたいという野望は捨てようとは思わない。
だってビックリした顔が可愛いからね。

この女の顔はボクの好みじゃないけれど。


「ねぇ、そろそろ出ないかい?」
『待って、後このコーヒーだけだから』
「ボクその豆あまり好きじゃないかも◆」
『…あら奇遇ね。私もよ』


一口飲んでからソーサーの上にカップを置き、水を飲んでから彼女は席を立った。
請求書を取ろうとする手を制して紙を掠め取るとクスリと笑われた。
ありがとうの意味だ。
いちいち言って確かめ合う程ボクと彼女は浅い関係じゃあない。















レストランを出て近場にチェックインしていたボクのホテルへと向かう。
その間も他愛のない、意味のない会話をしながらボク等は沈黙を遠ざけた。
少しでも空気を作るのは今の状況からあまり宜しくない。
彼女は所構わずという様なチープな逢瀬を好まない。
それにもう一度言うがボクはこの女の顔は好みじゃない。
ボクを満たすのは、いつだって。


「ねぇ、」


ネクタイを解きながら、鞄をソファに投げ置く彼女に声を掛ける。
直ぐに振り返るその清楚な雰囲気の女に鼻白んだ視線を向けた。
困惑した様な表情がまた腹立たしい。
絶対にわざとやっているんだ、彼女は。


「もうその変装解いたら?」
『あら、ヒソカはこの子嫌いだった?』
「ボクは潔癖な淑女なんか嫌いだね、青臭くて。誰なの、その子◆」
『取引先の令嬢。あんまり可愛いからコピーしてきちゃった。でも、』


不意に、スッと彼女を覆っていた念が消えた。
“凝”をしても朧げにしか見えなかった本当の彼女が姿を現す。


『私も潔癖は嫌いだわ』


艶っぽい、掠れたアルトの声音。
燃える様な真っ赤な髪のベリーショート。
切れ長で妖艶な双眸。
女らしい小柄な背丈からスラリとしたモデルの様な長身へ。
形の良い唇が蠱惑的に笑みを浮かべるその様に、ボクは堪らず腕を伸ばした。


「―――…サヤカ、」


ああ、ボクの、サヤカ。
ボクの半身。
双子の妹である君以外、どうして女だと思えるだろう。
君だけがボクを縛る。
君だけをボクが縛る。
潔く腕の中に収まる愛しい存在に身体がアツくなった。

背中にゆっくりと伸ばされる細い腕。
上向く顔、絡まる視線。
彼女の全てがボクを愛撫する。
彼女の全てがボクを夢中にさせる。

唇をボクのそれで塞いで深く貪る。
応える様に舌を絡めてくるサヤカをボクはソファに押し倒した。
鞄は床に転がったが気にしてなんていられない。
どうせもう歯止めは効かないんだし。


『……ヒソカ、』
「うん?」


首筋に顔を埋めていると呼ばれる、名前。
その掠れた音が心地好くて、笑みを浮かべながら 相槌を返す。
するとやっぱり気が付いてくれたらしく、もう一度彼女はボクの名前を呼ぶ。
それが嬉しくてバードキスを唇に一つ落とすと、サヤカはもっと妖艶に笑って口を開いた。


『会いたかった』


ああ、ボクは、どんどん彼女に堕ちていく。






























ミワクノ女






 

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