戦国BASARA(中編完結)

□女物語
1ページ/10ページ





その後、私達は近くの宿に泊まることになったのは良いがあれ以来口を開こうとしない真田様にどう接していいのか分からない私。体は電流が走っているような痛みに襲われ歩くのがやっとだ。




「鈴花様」


『…は、はい…』


「……何故、そんな無茶をしたのですか?」




落ち着いた喋り方だが、それが逆に怖い。真田様が怒ると猿飛様より怖いことを私は知ってる。



『………その…体が勝手にと言いますか…ごめんなさい』


「あんな大人数に勝てると?こんなに怪我までして…どうしていつも勝手なことばかりするのですか!?小春殿に会わなければ鈴花様は今頃…ヤられていたかもしれないんですぞ!!」


『そ、そんなに怒ることないじゃないですか!私だって大人数には勝てないことも助けが来なきゃこんな怪我程度じゃすまなかったことぐらい理解できます!そこまで馬鹿じゃありません!!でも…でも私が助けなきゃ…小春ちゃんが私と同じ目にあっていたかもしれないっ…そう思うと体が震えて…きてっ…怖くないわけないじゃない!!あんなに囲まれて身動きも取れないのにっ…』




分かっていないと思っていた。俺がどれだけ心配したのかどれだけ怒っているのか自分がどれだけ勝手な行動をとったのか。鈴花様は分かっていないって自分の中で思っていたけど、それは違ったのだ。分かっていなかったんじゃない…分かっていたけど無意識に動いてしまったのだ。

小春殿に案内されてすぐに鈴花様を見つけた。無事でいて欲しい…無事でいてくれ…そう願っていたけど頭の片隅ではきっと怪我をしている。もしかしたらもう…何て縁起でもないことを考えていた。


心臓が止まるかと思った。至る所に殴られて出来たであろう痣や傷、はだけている着物。心の底から怒りを覚えた。




「……悪かった…怒鳴ってしまって…」


『馬鹿!馬鹿ぁっ!怖かったよすごく…怖かったっ!!』




いつから鈴花様は俺に弱さを見してくれ始めたのだろうか。いつも凛々しく強く、そして絶対に他人には関わらないようにしていたはずの彼女がこんなにも自分に心を開いてくれている。


嬉しさとちょっとした優越感、その反面不安と言い様のない嫉妬にも襲われる。
本音を言えば今回の件は政宗殿には言いたくなかった。鈴花様の事を政宗殿は必ず気に入ると確信があったからだ。何故?と聞かれれば答えに困るが、宿敵だからこそ。とでも言っておこう。




「………鈴花様、泣かないでくだされ。折角の綺麗な顔が台無しでござるよ?」


『……………余計なお世話です!!もうっ…』


「某、鈴花様が何か口に入れられる物はないかと宿のおばちゃんに聞いてくるでござる。」


『………………………………』




不安そうに見上げてくる鈴花に幸村は首を傾げる。数秒見つめ合い幸村はハッとする。



「大丈夫でござる。頼んだらすぐに戻ってきます故、横になっていてください。」


『………で、でも…………っ』


「本当です。この幸村、命に代えて嘘は付きませぬ。」



子供をあやすように話しかける幸村に鈴花はそっと手を伸ばす。



『……………約束、です……よ…?』


「っ…や、約束でござる」



目を見開いた幸村だがすぐに顔を赤くしながら笑う。そう…鈴花が見たかった幸村の笑顔。最近は、私を安心させる為や誤魔化すような笑みそればっかりだった。


パタンと閉められた襖の音が部屋に響き渡る
その音に少し寂しさを覚える。



『……………………さなださま……』




ぎゅっと絡められた小指から全身に伝わる熱
これが人の温もりと言うやつだろう。お米や秀次様、信行様が愛しくなる。


それよりも今の今まで私に触れていた真田様の体温が恋しい。私はいつからこんなに弱くなったのだろうか?


いや、本当は弱いのだ。凄く弱い。
それを強く見せることで“私”と言う存在を作り上げていたんだ。


情けない。こんな自分は自分じゃない気がしてどうしようもない気持ちと混ざり合い私を狂わせる。大袈裟かもしれないけど、それぐらい…


それぐらい今の私には余裕がないのだ。
そっと目を閉じる。ゆっくり深い眠りに入る。




「…………………………」





鈴花が寝たのを見計らい天井の一部がガタンと外される。音をたてずに降りてきたのは一人の忍である。


そっと鈴花に近付く、その手にはクナイが握られていた。




「鈴花様、お粥ができ…な、何者だ!?」


「………ちっ」




運良く幸村が来た為、鈴花を狙いやって来た忍は退散した。幸村はすぐに鈴花に傷がないか調べる。



急に勢い良く腕を掴まれた鈴花はゆっくりと目を開けた。



『………さなださま?』


「何もなかったですか!?大丈夫でござるか?」


『一体…なんの事ですか?何かあったので…ユリの香り…紗知が来ていたのですか?』




鈴花様の言葉に驚いた。ユリの匂いがあの忍ならば…何故鈴花様を殺しに来たのか。



「……いえ、誰も。ただ、鈴花様が眠っているとは思っておらず…取り乱してしまい申し訳ありませぬ」


『あ、謝らないでください!ですが…紗知は来ていなかったのですか』




残念そうに呟く鈴花様。確信した。
紗知と言う忍はまた必ずやってくる。殺しに


佐助を呼び、他にも調べて欲しいことが増えたがまずは無事に奥州に入り幸夜殿に会わなければ。



『最近、遠くなるばかりなんです。みんなが離れていくような…そんな感じがするんです。紗知だけじゃない夜一や佐近もそう。』



あの子達はみんな私を恨んでいるからと言った鈴花。そう、紗知だけじゃない夜一も佐近も私を恨んでいる。理由は分からないけど、そんな感じがするのだ。長年の付き合いだからだろう紗知達の変化はすぐに分かる。




「そ、そうだ!女将にお粥を作って貰ったのですが食べますか?」


『はい。凄くお腹減りました』


「今、持ってきまする」


『いえ私が取りに行きますから!真田様にそこまでして貰うわけには…っつ』


「傷口が開いては困りまする。今は甘えてくだされ」



仕方なく頷けば真田様はまた部屋を出ていった







「…………………佐助」


「はいはいっと」


「………暫くは鈴花様の護衛に付いてくれ。それから他の者には如月家の不審な動きについて調べるように。あ、そうだ佐助。」


「なぁに旦那」


「紗知殿からユリの香りはするか?」


「ユリの香り?さあ…結構鼻はいい方だけど俺様は気付かなかったよ。ユリの香りがどうしたの?」



旦那が急にユリの香りがどうのこうのと言い出した。言葉を濁す旦那だが俺様の性分、そういうのが一番気になる。



「あの紗知ってくの一からユリの香りがしたわけ?」


「……俺ではなく鈴花様が暗殺に来た忍が去ったあと、ユリの香りがしたと仰っていて“紗知が来ていたのですか?”と申したから気になってな」


「ユリの香りねぇ…本人が持つ独特の匂いってやつかな?でも何で姫さんはあのくの一だって思ったんだろうね。」


「長年の付き合いだからだろう。だが、今しがた府に落ちんのは…」


「あのくの一が姫さんを狙う理由と何で今なのかって事でしょう?ちゃーんと調べるから早くお粥を姫さんに持って来なよ。冷めるよ?」


「わ、忘れていた…頼んだぞ佐助!」


「りょーかい」




お粥を乗せた御盆を持ち部屋へ入っていく旦那を見届けてから数人連れてた部下に如月家の不振な動きとくの一達の事をもっと調べるよう伝えてから俺様は屋根裏に移動する。


屋根裏から旦那と姫さんのやり取りを見てると凄く苛つくのは俺様だけの秘密だ。何だかんだ言いながら幸せそうな旦那の顔を見てたら心からホッとした。




「………まったく、どうなるかと思ったよ」



姫さんが城を出て一人で囮になるって言い出したときの旦那の不機嫌な顔。稽古で発散するのは良いとして怪我人まで出してしまったのは怒るよりも先に呆れてしまった。


どんだけ姫さんに執着してんのって口には出さないけど心の中でかなり叫んでいるもう一人の俺様。でも、逆にそんな旦那が羨ましくて仕方ない。



好きなものを好きだと言えて、守りたいものは何がなんでも守ると言って、熱くなるととことん熱くなれて、俺様には無いもの持ってる旦那が凄く羨ましくてそんな旦那を羨ましがってる自分に腹が立って仕方ない。

姫さんもそうだ。守ると言ったら守る、好きなものは好き、嫌いなものは何がなんでも嫌いと言えるタイプ。
そんな二人は見ているのも辛いぐらい俺様にとっては眩しすぎて綺麗すぎる。忍なんか所詮戦の捨て駒にしかならないっていつも部下には教えてきた。


けど、大将や二人を見てると忍も捨てたもんじゃないなって思うようになってきた。
“忍は道具ではない!”“忍の貴方でも心はあるでしょう?”


そう言われて自覚した。感情を押し殺せてない時もあった。旦那が関係するときが主にだが。



“人間、時には諦めが必要なときがあるんだ よ旦那。願っても粘っても叶わないもんがあ るんだよ。”



前に旦那にそう言ったがあれは自分に対しても言い聞かせてたのだ。横恋慕なんか似合わない

そんなことして悲しませるぐらいならこの気持ちは最初からなかったことにすればいい。








次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ