戦国BASARA(中編完結)
□女物語
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結局、暫く鈴花は風魔に下ろしてもらえなかった。幸村もその事に腹を立て攻撃し続けた。佐助もかすがも止める気も失せ、巻き込まれないように遠くに行き三人を見守る。
『もう、二人して大人気ないと思わないのですか!!』
「も、申し訳ない…」
「〈すまなかった〉」
『そんだけの元気があるなら他の事に使ってはどうですか?例えば、食材を捕ってくるとか。丁度お腹も空きましたし…』
そう言えばバッと消えていった二人。
『……………………………………………』
数分後、戻ってきたのは熊を担いだ幸村と魚を大漁に抱えている風魔だった。目を点にしているかすがと佐助と鈴花に気付かずに嬉しそうに捕ってきた獲物を見せ付けている。
「だ、旦那?これは一体…」
「熊だ」
「それは見れば分かるよ!!何で熊!?」
男は黙って熊だぞ佐助!と捕ってきた熊を佐助に差し出す幸村に鈴花は苦笑いをする
風魔も同じく佐助に魚を渡す。
『……………はぁ…』
佐助とかすがはご飯を作る為に、幸村と風魔は未だに攻撃しあっていた。鈴花はと言うと日があまり当たらない木の下で一休み。
『……真田様と一緒…少しだけ、嬉しいな』
今まで必ず近くに忍がいて見守られていると言うよりも見張られている…と言った方が良いのかもしれない。常に突き刺すような視線とうっすらと殺意まで混ざっている視線。
真田様も気を使いその事には触れなかった。部下は自分の為にしてくれている行為なのだかは怒れないのは仕方ないと私もその事には触れなかった。
『………真田様と…』
野の死身村に行くまで…いや、着いてからも二人っきり。本当は一人で行き自分だけで解決したかった。でもそれは建前で……本当は凄く怖くて…凄く寂して…。だから、真田様と一緒って聞いたときはホッとしてる自分がいた。
「鈴花様ー!」
『は、はい!?』
突然、真田様に名前を呼ばれてつい声が裏返ってしまった。
「?食事が出来たみたいですぞ!!早く行かねば無くなってしまいまする!」
グッと腕を引っ張られる。当然、引っ張られる力が強く無理矢理立ち上がる事になる。バランスを崩してそのまま幸村の方へと倒れてしまう。
『ご、ごめんなさい!!今退けますから…』
「…………不安ですか?」
『え?』
「野の死身村の件、随分悩んでおられたと佐助から聞きました。鈴花様が一人で向かうことは正直賛成は出来ませぬ。ですから、佐助が嫌がると分かっていながらも風魔にお願いしたのです。」
不安ではなく不満ですねと困ったように笑う幸村に気まずそうに目を反らした鈴花。幸村が鈴花を心配してる事も、一人で行かせるわけない事も、理解してる
『確かに不安も不満もありますが、真田様が私の為と思いしてくれた事だってことも理解はしています。ただ、巻き込みたくなかった…本音を言えばもう…これ以上…真田様に傷付いて欲しくない…』
真田様だけじゃない。猿飛様もかすがさんも風魔さんも傷付いて欲しくないのは同じ。
『私のせいで…私なんかの為に…真田様や大切な人が傷付くのは見たくないんです…』
「それはみんな同じであろう。俺だって傷付いて欲しくない人が沢山いる。鈴花様が思っているよりも遥かに鈴花様が傷付かぬようにと想っている。」
お互い様だ。と頭を撫でる幸村はいつもの様に幼さは残っていなかった。顔が赤く染まるのが分かる鈴花。
「………顔が真っ赤ですぞ」
『い、言わないで下さいっ…自覚はありますから!!』
「すみませぬ…ですが、俺の言葉で、俺のしたことで鈴花様が動揺したり考えたりこう顔を赤く染めたりしてくださるのが嬉しくて」
口に出さずにはいられぬ。と本当に嬉しそうにしている真田様に何とも言えぬ想いが込み上げてくる
「こうしている間は、鈴花様の中は俺の事で一杯になる。俺の事しか考えられなくなる。こんな時にこんな事を言うのは不謹慎かもしれぬが…本当に幸せだ」
真っ直ぐな人、偽らない人、純粋な人。私にはないものを持っていて、私が欲しいものを持っている。だから、きっと真田様に引かれるのだと思う
幸せ…確かに今この状況からすれば不謹慎だ
けど、それは真田様だけが思ってるわくじゃない。私だって同じ。この瞬間が幸せで幸せすぎて嘘なんじゃないの?と疑いたくなるぐらい
今だけは…今だけは、真田様の声も手も温もりも優しさも全部独り占めしていたい。
噛み締めなくてはいけないこの幸福な時を。これから私達が向かうのは戦場であり、私が命を落とす場所。昌次との決戦の地。
どうなるかも分からない…怖い。怖くて言葉に出来ないけど、私は守らなきゃいけない。どんなことがあっても逃げたらいけない。今まで逃げてきたんだから今度は立ち向かわなきゃ
『私はもう怖くありません。真田様が居てくれるから』
にっこり笑い幸村に向かってそう言った鈴花
「お二人さん、熱くなるのは勝手だけどご飯冷めちゃうでしょう!!」
割烹着を着てしゃもじを振り回している佐助
「………………………………」
『………………………………』
「ったく、聞いてるわけ!?二人してポカンって顔しちゃってさ」
俺様の顔に何か付いてる?と聞いてくる。付いてると言うよりも着ていると言った方が正しいに違いない。それよりも、どうしてここまで来て割烹着なのかを全力で説明して欲しい。
『さ、猿飛様…何故…こ、ここまで来て割烹着を?』
「何?割烹着ダメだった?」
『ちがっ…に、似合ってます!』
吹き出しそうなのを我慢しながらそう言えば猿飛様は「そうかなぁ〜?」と機嫌が良くなりかすがさんに見せに行こうとスキップして行った
『「……ぷっ…」』
『「アハハハ!!」』
幸村と顔を合わしお互い吹き出してしまった。
「久しぶりに腹を抱え笑いました」
『確かに!』
こんなに嬉しいのは久しぶり。鈴花様が隣で笑っている。それだけでも幸せすぎるのにこうして二人での時間まで出来ている。
もしこのまま、このままずっと幸せの時が続けばいい。だが、それは夢のまた夢でしかない話なのだ。これから何人死ぬのだろう。いや…何万人者死者が出るだろう。決して悪さをしたわけでもなく、ただ俺達のせいで死んでいく者達の中にも愛しい家族を残したりそんな事情を抱えている者達も少なくはない。
今から俺はそういう者達も斬らねばならぬ。
戦ほど…辛いものはない。鈴花様も今はこうして笑ってはいるがきっと心の中では苦しい思いをしてるに違いない。
「(守らねば…どんなことがあろうと!!)」
もう、鈴花様が傷付く姿は見たくない。秀次殿も信行殿も俺と同じ立場ならそう思うだろう。だが、二人以上にそう思っているのは俺だ。信行様からは文を貰い鈴花様の事を頼まれている。だから護衛とかをしてるわけではない。
『真田様?いかがなさいました?』
「あ、いや、こうして穏やかな時を過ごすのも良いものですな」
『…………………そうですね』
一瞬、驚いた顔をした鈴花だがすぐに優しく微笑む。この時、何故驚いた顔をしたのかそこまで気にはしなかった幸村。
鈴花の中ではとうに覚悟は決まっていた。何が起きても幸村だけは守ると言う覚悟
野の死身村に向かう幸村と鈴花に立ちはだかる大きな闇の壁。その壁が今すぐそこまで来ていることを二人は気付いていなかった
そして、甲斐に居る信玄にも大きな闇が迫っていることを誰も知るよしもない。
「この時を待っていたのだ…最高の人材である真田幸村が自ら人柱になる為にここに来ると知ったときは腹を抱えて笑ったわ」
「…………………………………………」
「主は、颯人とは違い儂を裏切らぬと知っている。そうであろう?紗知」
「……………昌次殿が望むのならば地の果てまで着いていきます」
紗知がそう言えば昌次は近くにあった赤い光を放っている玉を撫でる。愛しそうに優しく。
「ハハハ!鈴花もバカな奴よ。こちら側に来ていれさえすれば大切なものを失うこともなかっただろうに…もうすぐ御華にも会える」
狂ったように玉を撫で続ける昌次を横目に紗知は何を思っているのか。
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