戦国BASARA(中編完結)

□女物語
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「……………姫様」



いくら呼んでも返事をしない。ばんっと襖を開けると鈴花の姿はなかった。





「夜一!!佐近[サコン]!!姫様が居なくなった!」



「なにしてんだよ紗知!」



「暫くは一人にして欲しいと言われて…けれど、さっきまで部屋にいる気配はあったんだ」



「なら、そう遠くには行ってないだろう」





紗知、夜一、佐近は鈴花を探す為に姿を消した。残された那琴[ナコト]は信勝の子守り役














『……(黙って来ちゃったけど、少しぐらいなら大丈夫だよね)』




馬を走らせる。向かうは信行様と暮らした屋敷があった場所。もしかしたら、生き延びてくれたかもしれないと淡い期待を抱き精一杯走らせる。




途中、忍の気配がした。構うものかと馬を走らせると目の前に人が降りてきた。




『………なっ、止まれ!!』




ギリギリの所で止まり忍を見ると夜一だった。信勝の子守りをしていたのではないのか?と思いながらも警戒する。




「何をしているのですか姫様」



『退きなさい。私は自分の目で見たことしか信じない!!』



「ご自分の立場を考えて行動してくだされ!姫様は今、命を狙われても可笑しくないのですよ」




『そんな事、十分承知している。けど…もしかしたら生きているかもしれない…そんな期待をしたって良いじゃないか!!』




力一杯手綱を握る。こんな事を言っても信行様は帰っては来ない。それでも信じたくなくて嘘だって笑って欲しい






『……期待ぐらい…させてくれ…でなければ私は…どうしたら良いのか分からぬのだ…』



「姫様、どんなに期待しても信行殿は戻ってきません。武田の城へお戻りください!!若や我々には姫様が必要なのです。」




夜一は紗知の様に甘くはない。きっと私が戻らなければ無理矢理でも城へ戻すつもりだろう。

何で紗知より先に夜一に見つかってしまったのだろうかと頭を抱えたくなる。





『…………………はぁ…』



「………………………………」



『夜一相手では仕方ない。武田の城へ戻るよ』




諦めたように笑えば夜一はホッとした顔をする。その後、紗知も合流し武田の城へと戻ったら子守りをしていた佐近にこっぴどく叱られた




「良いですか姫様。貴方はまだ追われる者としての自覚が足りないのですよ。今回は我々が任務がなかったから良かったものの…聞いているのですか!?」



『き、聞いています…』



「それに一人で馬に乗り落ちたりしたらどうするつもりだったんですか?」



『別に馬ぐらい一人でも平気だ。それは夜一達も知っているだろう?』



「そうではなく…怪我でもしたらどうするつもりだったんですかと聞いているのですよ!全く姫としての自覚もないんでは困ります。貴方は如月家の姫なのですから行動、口調、仕草などには気を使ってくださらないと困ります。全く姫様は困ることばかりだ」




ごもっともだが…そこまで言わなくても良いんじゃないかと思う。隣では紗知も佐近も頷いていた。




「……姫様は今、命を狙われる立場。ちゃんと自覚をしてくださらないと困るのです。」




紗知は一歩前に踏み出しそう言った。








『立場…立場…立場…何度も言われなくてもそんな事ぐらい十分自覚も理解もしている。けれど、こんな場所でのこのこ生きるよりも正々堂々と生きたい!』



「…………しかし、姫様は…」



『私達が何をしたのだ!私達は何もしていない…悪いことなどしていない!それなのにどうして隠れて生きなきゃならない!』




声を荒上げる鈴花の姿に三人は目を見開く。普段怒ってもここまで怒鳴ったりはしない性格だと思っていたからだ。



「確かに姫さんの言う通りだよねー」



「お前は…猿!」



「ちょ、猿じゃない!!俺様は猿飛佐助!!いつになったら覚えるわけ?」




『……真田様の忍』




屋根裏から出てきたのは佐助だった。嫌味たっぷりの佐助の発言にクナイを飛ばす紗知。





『………真田様も居るのでしょう?』




障子の襖を開けると驚いたような顔をしている真田様が立っていた。どうぞ。と部屋の中へ招き入れるとオドオドしながらも猿飛さんの隣へと腰をおろした。




『いつから…とは聞かなくても良さそうですね』



「鈴花様は何故気付いたのですか?」



『そうですね…勘、では駄目ですか?』




私も正直なところ何故真田様が居ると分かったのか分からない。だから、聞かれたら勘かも…と答える他ないのだ。





『私もハッキリとは分からないのですがなんとなく…真田様が居るような気がしたんです。』



「…………勘、ね」



「姫様を疑うつもりか?猿」



「猿じゃないってば!」





何やら揉めている忍と紗知。なんだか良い雰囲気だが、怒られるのが嫌なので黙っている。





「……その辺にしといたら?」



『あ、夜一。居たのね』



「姫様酷い!!」




「鈴花様…この者達は…?」






『真田様は会うのは初めてでしたね。ご紹介します。如月家の忍隊のみんなです』



長い茶髪を高い位置で結んでいるのが夜一。




『彼は私が秀次様の所へ嫁いだ時に如月家の忍隊に入ったんです。元は織田の忍隊だったらしいんですが…訳があり家に来たのです』




次に黒髪で前髪が目にかかるぐらいの長さ、後ろは襟足が少し長めにしてあるのが佐近。




『佐近は私の二つ上で小さいときから如月家の忍隊に所属しているのです。見た目は暗いですが根は優しいので怖がらないでください』




そして、最後に如月家の忍隊の長、紗知





『紗知も佐近と同じで小さいときから如月家の忍隊に所属していました。この中でも一番の実力の持ち主です。』





「忍隊って言っても三人だけなわけ?」




『……それは………………』





佐助の質問に俯く鈴花。透かさず夜一がフォローに回った。





「他の者は皆、如月家の当主である昌次様に使えています。如月家の忍隊と言っても我々は個人で姫様に使えているだけですから三人しか居なくても不思議ではありません。紗知は忍隊の長なので滅多に姿を現せませんが。」



「そうでござったか…もう一つ聞いてよいでござるか?」



「どうぞ」



「何故夜一殿や佐近殿、紗知殿は個人で鈴花様に使えようと?」





真田様の質問に真っ先に答えたのは紗知だった





「姫様は我々の命を助けてくださったお方なのです。忍は戦の道具でしかない。」



「でも姫様は違う。同じ立場で同じ目線で話しかけてくれて一緒に歩いてくれる。」



「我らを人同然に扱ってくれる。昌次様とは違う優しい方。だからこそ我々は姫様を慕い」



「姫様を守る。そう誓い合ったんだ。例えそれが如月家を裏切ったとしても」



「姫様は我々の永遠の姫様なのです」




照れ臭そうに語る三人に顔が赤くなるのが分かる。嬉しい…こんな風に思われていたなんて思わなかった。





「姫さんも随分と慕われたもんだねー」



「良き部下をお持ちですな」











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