戦国BASARA(中編完結)

□女物語
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「人間、時には諦めが必要なときがあるんだよ旦那。願っても粘っても叶わないもんがあるんだよ。」





一回ちゃんと頭冷やした方がいいんじゃないの。とそれだけを残しどこかへ行ってしまった佐助を見て胸がズキンと痛んだ。



――「叶わないもんがあるんだよ」――



そんな事は随分前から知ってる。現に俺の初恋は静かに幕を閉じようとしているのだから。

佐助に言われ、ゆっくり瞼を閉じる。
ぐるぐると頭の中を駆け巡る思い出と言葉達に俺は不安になる。




鈴花様を忘れなければならないのか。忘れられるのかどうか。いや、忘れることは出来ないだろう。鈴花様以外の者を愛すなど俺は器用ではない。


でも、俺が諦めれば鈴花様は自由になれる。手放したくないが手放さなければならない





「………どうすれば良いのだっ…」







もういっそ、佐助の言う通り誰でもいい自分を愛してくれる女を…なんて柄にもないことを考えてしまう。





それでも俺の全ては鈴花様を無意識に求めてしまうのだから不思議だ。






長い長い満月の月の夜、頭の中は愛しい彼女の事で爆発する一歩手前。何かを求めるわけでもなくただ手を伸ばす。


見返り?そんなもの最初から期待はしてない。
上手く伝えたいこの気持ち。あの時の様に感情に任せるようなことだけはしないようにと自分に言い聞かせる。





―――――――――――幸村side. end







『では、私はここら辺で失礼します。信玄殿もあまり長居をしないように…夜風は体に毒ですから。』



「ハハハ!鈴花は厳しいのぅ。主もゆっくり休んでまた答えを探せば良い。焦らせる者も居るようじゃが、儂は主の考えに反対したりはせん。」




『………遠回しにここにいても構わないと言わないでください。私が周りに影響され易いとご存知でしょう?本当に、人が悪い。』





にっこり笑えば信玄殿も笑う。そのまま信玄殿だけを縁側に残して自室に帰ろうと廊下を歩く


何となく…長い廊下がもっと長く感じる。虫の鳴く声が異常に大きく聞こえる。懐かしい感覚、ああ…そっか。


信行様の屋敷と同じなんだ。作りは違うけど雰囲気…って言うのかな?だから、凄く懐かしい



誰にも会いたくない今、私にとってこの長い廊下は居心地が良すぎる。そんな能天気な事を考えていたら後ろから人の気配を感じた。



振り返れば、驚いたように目を真ん丸にさせていた真田様が居た。一番会いたくないと思っていた人物…やはり神様は私を毛嫌いしているみたいだと他人事のように思ってしまう。






「………………鈴花、様?」



『こんばんは、真田様。』



「……こんばんは…」




無理矢理名前に“様”を付けたように私の名前を呼ぶ真田様に内心焦っているのを隠すように挨拶をする。ぎこちなく挨拶を返してくれる真田様に少しホッとしている自分。





『何か私に用事でも?』



「…は、話を…したいなと思って…い、いや、あの!め、迷惑ならその……また後日で構いませぬが…」




オドオドしながらそう話す真田様に笑みが零れる。まるで、大きな犬が主人に遊びたい!!と頼んでいるように見える。

現に、私には真田様に耳と尻尾が生えてるのが見える。幻?幻覚?もしかして…とうとう頭だけではなく目まで狂ってしまったのか何て場に似合わない考え。




一向に返事をしない私を不思議に思ったのかシュンと耳と尻尾が元気なく垂れ下がったのが見える。





『……すいません。ボーッとしてしまって。私は構いませんよ?真田様は良いのですか…明日も朝、早いのでしょう?』



「だ、大丈夫!でござる!」



『そうですか…分かりました。なら、月が綺麗に見える庭でお散歩しながらとかどうですか?』



「う、うむ!ならば羽織を…」



『私は大丈夫ですよ?これでも体は丈夫な方ですから。それより真田様の方が薄着です。』



「いや、某は鍛えてる故これぐらい…」




『なりませぬ!!真田様はもう少しご自分の体を大切にされた方が宜しいのではありませぬか?それに、私と居たせいで風邪を引かれた…なんて忍さんに言われたら私は下げる頭がありません。』





少し強めに言えば真田様は納得し部屋に戻り何か羽織を持ってきまする!と走って行った。

それと同時に猿飛様が私の目の前に降りてくる。真田様が居なくなったタイミングを見計らって…本当にこの人は私の苦手なタイプだと改めて思った。





「旦那の事、あんまし振り回さないでよ?後で慰めたりするのは俺様達なんだからね」



『相変わらず、私には冷たいのですね?そんな風だと本当にかすがさんに振り向いてもらえませんよ。』



「………かすがは今、関係ないでしょう?俺様は旦那とアンタの話をしてんの!!」



『大丈夫ですから…忍さんが思ってるようなことはしませんし変に真田様を困惑させるような事も言いません。お約束…しますよ?」




小指だけを立てた右手を差し出すが佐助はそれを取らず、ただひたすら鈴花を疑う。






『……随分、嫌われてしまったようですね』




無理もありませんが。とにっこり笑う姫さん。
何故こんな状況でこんな風に笑っていれるのか俺様には理解できない。




「神経可笑しいんじゃないのアンタ…」




傷付いてる筈なのに明るく振る舞う目の前の少女に心底苛つく。怒れば良いのに…ふざけんなって怒鳴れば良いのに…言われるのが当たり前みたいに慣れてる。



ムカつく…何で俺様がこんなにこの少女の心配をしなきゃならないのか。新たな疑問が俺様の心を曇らせる。




チッと舌打ちをし旦那が来る気配を感じた為、話は中途半端に終わってしまった。胸に残るモヤモヤだけが俺様を襲う。














「待たせてしまい申し訳ありませぬ!!」



『……心配いりませんよ。ここの人達は皆さん優しいので。』



「そ、そうでござるか!」





私が誉めれば真田様は嬉しそうに笑った。城の者が誉められたのが嬉しかったのだろう。ニコニコしたまま庭に出ると綺麗な満月の月。

先程、信玄殿と見た満月の月と同じ初なのに今の方が物凄く綺麗。隣をチラッと見れば真田様も同じ様に上を見上げていた。






『それで、お話とは?』



「そ、そうでござった!!某、ちゃんと気持ちを伝えねばと思い…鈴花様にとったら迷惑な話だと思いますが…」



『いいえ、真田様の気持ちは凄く嬉しいです。でも、答えるわけにはいかないんです。』




そう言えば酷く傷付いた顔をしている。見てはいけない。見たら…情が移ってしまう。約束したんだ猿飛様と。





『私には私の進むべき道があり、真田様には真田様の進むべき道がある。それは運命で当たり前でやらなければいけない事…けれど、私は今まで逃げていたのかもしれません。死とは怖いもの…自分が死ぬより愛しい人が死ぬ方が遥かに辛く苦しく悲しく恐い。』





思い返せば吐き気がする嫌な過去に後ろめたくなる気持ち。それでは前には進めないと言われなくても理解はしている……つもりだ。



『だから、私は一人で信勝を助けに行こうと思います。真田様からしたら、は?と言いたくなる気持ちは分かります。猿飛様にも言われましたし…でも、これも私が悩みに悩んで見つけ出した“答え”の一つです。』





他に選択肢はあった…いや、ありすぎた。
だけど、私は地獄に落ちる鬼になると決めたときからこの選択肢しかなかったのだ。





『…そんな顔しないでください。大丈夫です。絶対に死んだりしないと約束しますから。それに昌次に私は殺せない。何かあればすぐに逃げ出します。』



「某では…や、やはり…頼りになりませぬか!?某にはまだお館様の様に絶対的な力も佐助のように冷静さや頭脳はない。それでも守りたいと言う気持ちは誰よりも強い!!」




『確かに守られていれば楽かもしれないし死と言う恐怖に追い詰められる事もないと思いますが、死とは常に隣り合わせ…簡単に言えば、死と生は紙一重なのですよ。とても薄い紙に私達は身を預けているんです。』





うーん!!と体を伸ばす鈴花様を見つめるしかできない俺は覚悟とか運命とかそんな細かいことを気にしていなかったと改めて気づかされる。


ない脳みそをフル回転させて何か言わなきゃ…気の聞く何かを言わなきゃって思っても何も浮かばないし何も言えない。





一人でずっと考えていたのか
恐怖と戦うといつ決めたのか
何故相談してくれないのか
そんなに頼りないか
どうして周りを頼らないのか




口を開けば鈴花様を傷付け追い込む言葉しか出てこない自分に腹が立つ。結局、俺も自分の事しか考えられない勝手な人間でしかないんだ。チラッと鈴花様の横顔を見つめれば生暖かい夜風が気持ち良いらしく目を細めている。



その姿は子が一人居るとは思えない程美しく優しく、こんな話をしているときに不謹慎かもしれないが“やはり鈴花様が好きだ”と思う。


幼いとき、俺に「脆い美しさはいつか枯れる」と父上が言っていた。今ならその意味が分かる。




「鈴花様、某は決めました。」



『何をですか?』



「必ず、鈴花様に相応しい男になります。そして、鈴花様を迎えに行きます。約束します…命に代えても貴方様を某の物にしますから」





“宣戦布告”


今ならその言葉が一番しっくりくるだろう
私は真田様の真剣な目とその言葉にただ驚くしかない。約束…今度は約束に縛られるのかと思いながらもそれが嬉しくてしかたない。





『わ、私の話を聞いてなかったのですか?私はもう…』



「それでも構わない。これは俺が勝手に言っているだけの事…でも覚えていて欲しいんだ。」



『…………なら、私も一つ約束して欲しいことがあります。』






私がそう言えば、真田様は何でも!と嬉しそうに笑っている。あ、尻尾が見えた。しかも千切れそうなぐらい振っている。




『……………………絶対、死なないでっ』














これ以上、昌次には渡さないわ。









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