戦国BASARA(中編完結)

□女物語
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―――――気を付けて…

また、この声…何を気を付けるの?
それよりも貴方は誰なの?



―――――気を付けて…鈴花も真田殿も

どうしていつも声だけなの?
貴方は誰なの?教えて…どうして私は
貴方の声に聞き覚えがあるの



―――――それと、甲斐に居る信玄が危ないの

信玄殿が?危ないって…?
もしかして昌次が…!?



―――――鈴花…わらわはもう力が尽きる。こうしていられるのも時間の問題なの…お願い…

待って…貴方は誰なの?
それだけでも教えて…















―――――今はまだ…言えない…わ…


『……っはぁ!!』


「鈴花様!?気が付きましたか!?」



横腹に激しい痛みに顔を歪める。
周りを見れば、子供も女の人も関係なく倒れていてみんながみんな血で赤く染まっている。



『……――っゲホ!!ケホ!!』


「しっかりしてくだされ!!この先を抜ければ追っ手も来ないはず…」




何があったの?何が起こってるの?混乱している頭を必死に整理してみるが全然覚えてない

真田様はどうして苦しそうな顔をしてるの?
みんなはどうして倒れてるの?
何で周りは火の海なの?



「心配ありませぬ。この幸村が着いてますから。だから、そんな顔しないでくれ」



抱かれてる腕に力が入ったのが分かる。
分からない…分からないのが一番怖い…
あの時みたい…私の力が暴走した時と同じ…



『…わ、私が…こんな事を…?』



そう聞いたら、一瞬だけ反応した幸村だがすぐに作ったような笑みを張り付けて「大丈夫ですから」としか言わなかった。

私だってバカじゃない…きっと私が何かしたに違いないのにどうして教えてくれないの?



『…………………………………』



ただ黙って幸村に抱き抱えられて逃げるしか出来ない鈴花の心には何とも言えぬ気持ちがポカリと空いたまま。

何も答えてくれない真田様にこれ以上何も聞けない。聞いちゃいけない気がして…。





何も分からないまま村外れまで出てきた私と真田様はどこか休める場所を探すがあまりいい場所がない。



『……さ、なださま…おろして…くださ、い』


「ダメでござる。傷に響きます。」


『…では…何があったか……話して、下さい』


「……………今は鈴花様の傷口の手当てが先でござる。話はそれからで勘弁してくだされ」



観念したようにそう言った幸村に仕方なく頷き体を預ける鈴花。先程よりも痛みが増していく…弓ではなく刀で一刺だろうか…



それよりもあの夢は何なのだろうか…。本物なのか偽物なのかそれすらも区別がつかないぐらい分からない夢。女の人の声、聞き覚えがある



『…さな…ださま……わたしは…行かねば…なら、ぬ…所があるの…で、す。』


「……行かねばならぬ所?」


『…………黄泉の……せか、い…に…』



不思議と呼ばれているような気がする。
そう、夢の中のあの女の人に…



「よ、黄泉って…どうやって行く気なのですか!?それにっ、ぐあ…」



シュッと風を切る音と同時に幸村が地に倒れる。ドサッと共に倒れた鈴花は少し先の方に投げ出されてしまった。



『あっ…』


「…す……鈴花様っ!」


『……………ゆ、ゆきむら、さ…ま…』




幸村の肩には弓矢が刺さっている。そんな状況になろうが、幸村は鈴花の飛ばされた場所まで這いつくばる。
手を伸ばし触れられる寸前まで来た。


がしかし、それは叶わなかった。




「おやおや、お困りの様で。」


『……あ…貴方は…』


「明智…光秀ぇぇぇえ!!」



明智光秀…人がこんなに怖いと思ったのはこの人が初めてだ。見つめられただけで動けなくなるぐらいの恐怖に襲われる。

冷たく、何も写さない瞳の奥はただ破壊と死への恐怖に歪んだ顔を楽しんでいるだけ。




「偶然ですねぇ。こんな所で会うなんて…しかし、姫様ともお会いできるとは感激です。」


『………あっ………なん…で…』


「鈴花様から離れろ!」


「離れろとは失礼ですねぇ。私は姫様を助けて差し上げようとしているだけですよ?感謝されてもいい側なんですけどね。」



と言い鈴花に近付き頬を愛撫でる。その行為は幸村の怒りを更に頂点に向かわせるのには丁度良かった。無我夢中になり槍を振り回し始める幸村に嫌な笑みを浮かべる光秀



『……これが…ねら、いでした…か』


「ふふふ、真田幸村は良い言い方をするなら純粋ですが、悪い言い方をするなら“単純バカ”ですかねぇ。扱いやすいに越したことはありませんが」


『…あくしゅ、み…ですね……』


「おやおや、誉め言葉にしか聞こえません。それより私の役目は貴方を昌次殿と所へ連れていく事。」


『…お、もいだし…た…貴方達に…襲われて……私が、力を…使ったのね…』


「素晴らしい力を見せて頂き心より感謝しますよ。人とはかけ離れた力をあそこまで使いこなせるようになるとは驚きでしたが、色々と参考になりました」



何が参考になったのだろう。この人は本当に意味が分からない。それよりも、真田様を止めなければ…このままじゃ昌次の思い通りになってしまう。そんなこと、させない


「おや、そんな体で助けに行くのですか?」


『……当たり前…でしょ…!!昌次に、伝えな…さい…私は必ず…そっちに行く、って…だから…待ってろ…って!』


「…………………承知しました。」



特別ですよ?と言い部下を見捨て去る光秀を横目に心を落ち着かせる。先程、力を使った反動で力を使った時の事を忘れていた。

でも、ちゃんと思い出したから。次は大丈夫



『……水よ、我が問いかけに答えよ。』


コポコポと遠くから聞こえる。



『お願い…幸村様を助けて…!!』




腹のおくそこから声を絞り上げれば、何処からともなく大量の水が鈴花の周りに集まり始める。周りで戦っていた人らはその事に気付き動きを止めるが幸村だけは止まらない



『……助けたいの…幸村様を…私の……大切な人を助けたいの!!』



自我を失い鈴花すら目に入らぬ幸村はまさに猛獣の如く恐ろしく強い。そんな姿を見ているこちらが辛い…悲痛な叫びで幸村の名前を呼ぶ鈴花と同時に水が一斉に幸村を取り囲む。



「アアアアアア…!」


『………っ幸村様…』



キツく締め付けられる体からは大量の新鮮な血が流れている。恐らく、先程刺さった弓矢の傷口が更に悪化したためだろう。


こんなになるまで戦い続けてなんになるのだ
無意味な戦いが目の前で起きている。戦のせいで大勢の人が無意味な死を迎えている。そのせいで、無意味な血が流れている。その無意味を作っているのは紛れもなく私と昌次だ
ドサッと地に落とされた幸村はピクリとも動かないまま。すぐに側にかけより意識を調べる
呼吸は大分荒いが大丈夫だろう。


『…ごめんなさい…私なんかと居たせいで…私のせいで……こんなになるまでっ…本当にごめんなさい』













声が聞こえた。啜り泣きながらひたすら“ごめんなさい”と繰り返す声…優しく暖かく落ち着く声に耳を傾ける。


「(泣いている…また泣いておられる…)」




自分は鈴花様を泣かせることしか出来ないのか?最近、佐助とは良く笑い話している所を見かける。かすが殿やお館様とも親しげに話している。


だが、俺を見るといつも鈴花様は悲しい顔をしながら無理に笑みを張り付けている。

理由は考えなくとも分かる。俺が秀次殿や信行殿に似ているからだろう…自分ではあまり分からぬが仕草や表情は似ているとお館様や上杉殿からも言われた。





これは、紛れもなく“嫉妬”だ。

俺よりも先に鈴花様に出逢った秀次殿
俺より後に出逢った信行殿に一人前に嫉妬しているのだ。可笑しな話だ。


鈴花様が好きで、諦めようとしたその度に好きと言う気持ちが増していき、また諦めようとするを繰り返すだけのそんな日々を送ってきた俺は想っていれば叶うと信じ、今の今まで生きてきた。




叶うわけないのに…今亡き最愛の二人を今でも今まで以上に想っている鈴花様の心に真田幸村と言う存在は本当にちっぽけなものだろう。



「(ただ…願いが叶うのならば……今一度、あの笑顔が見たい…)」




薄れていく意識の中、幸村はそう強く願った
叶わぬと分かっていながらも願わずにはいられなかった。








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