ミナクシ 2

□ボンビーガール 3
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「ま、そういうことにしていてあげる」

意味ありげに微笑みミサコ先輩はビールに口を付けた。
まるで私のことなんて全てお見通しと言いたげな口調だった。
ミサコ先輩は迫力自分なので、そんなことを言われるとドキッとしてしまう。

「渦巻さん」

私もミサコ先輩に促されるようにビールを一口飲んでいると今回の飲み会の主役に声をかけられた。
隣県の支店に異動する加納君だ。

加納君は私やミナトと同期。
そして会社でミナトの次に女性社員に人気の男性だった。
仕事が出来るので今回の異動は彼にとっては栄転なのだ。

「この度はおめでとうございます」

私は加納君に言った。
同じ職場だけどチームは違うからあまり話したことはない。
無難なことしか言えない。

男性と免疫がないから飲み会は凄く苦手だった。
キャバクラに勤めていたけど、慣れることはない。

私は愛想笑いを浮かべてなんとかその場をやり過ごそうとする。
だけど、加納君は当たり前のように私の隣へと座った。

「渦巻さん、秋ごろに引っ越した?」

「え?」

私は加納君に言われた意味が分からず一瞬ポカンとしてしまった。

「えっと、うん、そう」

焦りながらもなんとか答える。
確かに私は秋ごろに引っ越しをしていた。
ミナトの家に。
そのことは誰にも話していない。
……会社に届けは出したけど。
大企業なだけにコンプライアンスには厳しいから会社から、バレることはない。

「どうして加納君がそんなことを知っているの?」

混乱している私に変わってミサコ先輩が怪訝そうに聞き返した。

「あ、俺、渦巻さんの家の近所に住んでいたんです」

「はい?」

私は目を大きく見開いてしまった。
身体が硬直してしまい動かない。

「最寄駅が一緒だったんだ。渦巻さん、学生時代からあのアパートに住んでいたろ? 俺も学生時代からあの辺に住んでて良く渦巻さんを見かけてたんだ」

「へ?」

ニコニコと笑いながら説明してくれる加納君に私はますますパニックになってしまった。
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