ミナクシ 2
□ボンビーガール 3
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「秋ごろから渦巻さんのこと見なくなったなぁって、ベランダ菜園が無くなってて、確認したらアパートの部屋の表札が変わってたし」
「私が住んでいたアパート知ってたってばね?」
私は悲鳴に近い声を上げてしまった。
一気に注目を浴びてしまって、咄嗟に口を押える。
「失礼しました〜。みなさん、お気になさらず続けてください」
ミサコ先輩がフォローしてくれた。
私はこちらを見ている人たちに必死に頭を下げることしか出来ない。
大声を上げてしまって恥ずかしい。
「ごめん。渦巻さん、気が付いてなかったんだね」
加納君が私に言った。
私は何度も頷く。
会社の同期が近くに住んでいたなんて知らなかった。
しかも学生時代からというと5年以上だ。
「駅やスーパーで良く見かけてたから、渦巻さんも俺のこと気付いているとばっかり思った。ごめん、声をかければ良かったな」
申し訳なさそうに加納君が続ける。
私はなんと答えれば良いか分からず曖昧に頷く。
駅はともかく、スーパーには貧乏生活をしているとはっきり分かるような普段着で行っていた。
しかもノーメイクで!
その上、私が行くスーパーは激安で有名なスーパー。
その激安スーパーで私はじっくりと時間をかけて品物を吟味しながら買っていた。
知り合いはいないものだと決めつけていたのだ。
私はがっくりと肩を落とす。
あの情けない姿を見られていたなんてと思うと悲しい。
顔が真っ赤になってしまっているのが自分でも分かる。
「いくら近くに住んでいるからって渦巻さんのアパートまで知っているのは、おかしいんじゃない?」
ミサコ先輩が加納君に聞いた。
「あ! 俺、不審者と思われている? 渦巻さんが住んでいたアパートの隣の区画のアパートに住んでいるんですよ、俺! だから偶然知っていたというか、知ってしまったというか……」
慌てたように加納君が言う。
そんなことは気にしていないから大丈夫だと私は苦笑する。
でも、あのオンボロアパートに何年も住んでいたと知られているのは恥ずかしい。
いくら生活のためだったとしても。
「え? 隣の区画のアパートって、あの煉瓦造りの?」
私は加納君に尋ねた。