ミナクシ 2

□花束を君に
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生活音から、渦巻さんの生活習慣はなんとなくそれは分かっていた。
……なんだか俺、ストーカーみたいだなと思わずにはいられない。

でも彼女のことが気になるのだから仕方がない。
それにしても、と思い直す。

今日は運が良い!
テンションが上がってしまう。

だけど、そのことを渦巻さんに悟られないように必死で抑えた。
不審に思わせてしまうのだけは避けたい。

「今日は良い天気ですね」

「ん、そうだね」

俺は反射的に答えていた。
頭がぼーっとしてしまっていた。

彼女が玄関のカギを掛けるところを見つめてしまう。
それから、違和感。
渦巻さんがいつもと少し違うような気がしたのだ。

「あ」

俺は思わず声を漏らしてしまった。

「どうかしましたか?」

首を傾げながら渦巻さんが聞いてくる。
彼女の方を向いて俺は声を上げてしまった。
慌てて口元を抑える。

きょとんとしたように渦巻さんは俺を見返していた。
無邪気なその顔がとても自然体で。
本当に俺は彼女のことが好きなんだなと思ってしまう。

「波風さん?」

「っ!」

俺は渦巻さんに苗字を呼ばれて息を飲んでしまった。
初めて呼んで貰えた。

と、言うか俺の苗字を知っていてくれたとは!
そのことに感動する。
……表札は一家にポストボックスと部屋に出してはいるけど。

ますますどうしたのかと言う顔で見られてしまった。
マズい!
俺は焦りながら口を開いた。

「ん、今日はスーツ姿なんだね」

先ほど気が付いたことをそのまま声に出してしまった。
いつも渦巻さんはスーツではなくカジュアルな服装で出勤していたから。

それから、またもや俺はハッとしてしまった。
彼女をいつも見ていたことに気が付かれたかもしれない。
気味悪がられるかも。

何か言わなくちゃと思うけど、何も考えられない。
頭が真っ白になっていく。
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