ミナクシ 2
□純愛コンプレックス
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「ええっ?」
私は大声を出してしまった。
それほどまでに私にとっては驚愕な話だったのだ。
「なぁに? クシナ、そんな大声を出してはしたない!」
お母さんに言われて私は思わず両手で口を覆った。
それから探るようにお母さんを見つめる。
「それ、本当?」
私は思わず聞き返していた。
先ほど、お母さんに聞かれた話が聞き間違えでありますように内心祈ってしまう。
「そうなのよ。やっとフランスから帰ってくるんですって」
ニコニコと上機嫌でお母さんは私に言った。
ウキウキしているのが見ていて分かる。
「クシナも嬉しいでしょ? ミナト君が帰ってきてくれるのが」
当然のようにお母さんが言う。
私は一気に血の気が引くのが自分でも分かってしった。
「あ……うん。ソウダネ」
私は虚ろな表情で頷いていた。
「クシナは本当にミナト君と仲がよかったものねぇ」
お母さんが思い出すように語る。
「ミナト君、きっと格好良くなってるわよ。楽しみね」
満足そうに微笑んでいるお母さんに私は何も言えなくなった。
お隣に住んでいた波風ミナト。
彼が帰ってくると思うと私は気持ちが沈んだ。
✽✽✽✽✽
隣に住んでいたミナトが帰って来る!
私は自室に籠もりベッドのなかに潜り込んだ。
まるで悪夢を見ているような感覚だった。
「……嘘よ」
私は願うように呟いていた。
夢だと思いたかった。
幼い頃、確かに私とミナトは仲が良かった。
だって生まれたときからお隣同士。
同い年のミナトとはいつも一緒に育ったのだから。
親同士も仲が良く、家族ぐるみの付き合い。
そのミナトは彼のお父さんの仕事の都合でフランスに引っ越したのは私たちが小学4年生の時。
ミナトは幼いころから可愛かった。
オンナの子の私なんかよりずっと。
だから嫉妬していたのもあった。
私はミナトをずっと子分のように扱っていた。
まるでそれが当然のように。
ミナトはニコニコしながら私に従っていた。
どんなに嫌なことをしてもミナトは私から離れていかなかった。
だから、ミナトへと態度が増長してしまったのだ。
今考えると恥ずかしくてたまらない!
ミナトだって、高校2年生になった今、幼い頃に私が酷いことをしていたと気が付いているだろう。
中学生になって私はそれまでの態度を改めたのだ。
それまでのお転婆ぶりを少しだけ封印した。
少しだけ大人になった。
そして高校生になり、今は目下女子力を高めるために頑張っている。
なので、私の昔を一番知っているミナトは私にとって黒歴史なのだ。