ミナクシ 2

□ボンビーガール
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賑やかな店内。
それに反例するかのように室内の照明は少しだけ薄暗い。
私は周りに気が付かれないようにため息をそっと吐いた。

今日は金曜日。
会社が終わってからこの店に私は直行した。
週に2回だけの夜のアルバイト。
時給が良いから続けているけど、いつまで経っても慣れない。

キャバクラ。
綺麗な格好をして男性にお酒を作って微笑んでいる。
それが仕事。

「シナちゃーん、ご指名だよ」

私は呼ばれて振り返った。

「はーい」

ありったけの可愛い声を頑張って出して私は返事をした。
だけど私の源氏名を呼んだ店のマネージャーの隣にいた男性を見て私の身体は凍り付いてしまった。
本来なら客から指名をされたのだから別料金が入って嬉しいことだ。
でも、違う。

そこに立っていた男性は私が昼間勤めている会社の副社長。
波風ミナト。

向こうも驚いているのか少し呆然としているようだった。
それからハッとしたようにマネージャーに小声で何か言っている。

「ほら、シナちゃん。早くお相手して」

先輩に言われて私は正気に戻る。
しかし、どうしていいか分からない。

波風ミナトから何かを言われたマネージャーが私に耳打ちする。

「特別料金払うからシナちゃんと個室で話したいんだって。上客みたいだから、ちゃんと仕事するように」

私は意識が遠のきそうになってしまった。

キャバクラだからお酒を注ぎして、お話しをするだけ。
いかがわしいことはしないお店だ。
でも有名人や大物が来るときのための個室がこの店にはあった。

店のマネージャーが店で一番良いお酒をボトルで持ってくる。
どうやら波風ミナトが注文したらしい。
凄く高いのに!

個室に波風ミナトのあとに入室にする。
でも言葉が出て来ない。
ボトルの用意をしてからマネージャーが私の肩を激励するように軽く叩いてから退室した。

「ん、お酒注いでくれないの?」

波風ミナトの言葉にハッとする。
私は訳が分からないまま波風ミナトのお酒を用意した。
必死で考えるがどうして波風ミナトがこの店にいるのか分からない。
しかも私を指名するなんて!

それより、私の勤めている会社はアルバイトが当然ながら禁止。
バレたら最悪クビもあり得る。
私は全身から嫌な汗が溢れて来た。
彼は会社の副社長なのだから。

会社を辞めるわけにはいかない。
頑張って入った大企業。
給料だって凄く良いのだ。

ダラダラと冷や汗をかきながらお酒の入ったグラスを波風ミナトに差し出す。
手が震えてしまっている。

「取りあえず、乾杯しようか」

波風ミナトが穏やかに言った。
その笑顔を恐ろしい!

って言うか、私はお酒あまり強くないから飲まないのだけど……。
しかし断れる雰囲気ではなく、私は自分にもお酒を注いだ。

カチンとグラスの音が大きく響いた。
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