ミナクシ 2

□スプレンドーレ
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自分の恋を自覚してからは、彼女のことを少しでも知りたくてイタリア語の授業の時は彼女の席の近くに座った。
授業中に彼女のことを見ることが出来るように彼女の席の斜め後ろに座ることが定位置になってしまっていた。

だから、いつも授業が始まる直前に講堂へと入る。
そうしないと彼女をじっくり見る席に座れないからだ。
イタリア語の授業は俺の至福の時間となっていた。

彼女は一度もイタリア語の授業を休むことはなかった。
授業中は真剣にノートを取ったり、電子辞書で単語を調べたりしているようだった。
真面目に授業に取り組んでいた。

そんな彼女の姿がとても好感が持てた。
ますます彼女を好きになっていく。

6回目のイタリア語の授業のとき、彼女の友人が彼女のことを『クシナ』と呼んでいた。
彼女の名前はクシナと言うらしい。
綺麗な響きの名前だな、と感じた。

そこで、俺は彼女のことを何も知らないのだと思い知る。
彼女の苗字も知らなければ、学部・学年も知らないのだ。

イタリア語を履修している生徒は1年生が多いから同じ年だろうとは思っていた。
もっと彼女のことを知りたい。
その想いは日に日に強くなっていった。

7回目のイタリア語の授業のとき、彼女のレポートの表紙が偶然見えた。
『文学部1年 渦巻クシナ』と書いてあった。
彼女のフルネームと学部と学年を知ることが出来た。

10回目のイタリア語の授業が始まる前に渦巻さんがスマホを取り出しているのが見えた。
待ち受け画面がイタリアもベネチアの写真だった。
渦巻さんはベネチアが好きなのだろうか?
だからイタリア語を履修しているのかもしれない。

でも声を掛けることなんて一度も出来なくイタリア語の授業は終わってしまった。

前期試験も全て終わり、夏休みに入って後悔した。

渦巻さんと会えない。
彼女は俺の存在さえ知らないのだ。

大学生の夏休みは長い。
大学の授業がない限り俺は渦巻さんに会えない。
連絡先も知らないし。

俺はSNSで彼女の名前を検索したりしてしまった。
……これでは間違いなくストーカーだ。
渦巻さんとまずは友人にならなくては。

でも切っ掛けがない。
なので、取りあえず後期にイタリア語Uを履修することにしたのだ。
渦巻さんと親しくなるために。

かなりの賭けだった。
渦巻さんがイタリア語Uを確実に履修するとは言い切れなかったし。
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