ミナクシ 2

□花束を君に
3ページ/51ページ


何より素敵だったのはあの可愛らしい笑顔!
にっこりと微笑まれて時間が止まったような感覚に襲われた。
呼吸も上手く出来ない状態で、それで話すことなんて出来なくて。
情けない。

あの時、もう少し話せていたら今が違ったかもしれないと今でも後悔してしまう。
あの日の俺は部屋着で髪もボサボサだったと思うし。

今では顔を合わせた時に挨拶出来るまでにはなったけど。
それだけだ。

渦巻さんの詳しいことは何も知らない。
知りたいのに。

アパレル関係の仕事をしていること。
そして、多分。
恋人はいないだろうということ。
これは希望的観測かもしれない。

でも、今まで彼女が男性を部屋に入れた気配はないようだし。
女友達は多いようで、たまにパジャマパーティーをしているようだ。

もっと親しくなりたいなぁ。

「はぁ」

去年のことを思い出して、思わず俺はため息を吐いてしまった。
落ち込んでいても仕方がない。

俺は電気ケルトで沸いたお湯でインスタントコーヒーを注ぐ。
そして焼きあがったパンを皿に乗せて、取り合えず朝食を食べることにした。


✽✽✽✽✽


朝食を食べ終えて、スーツに着替える。
それから忘れ物がないかをチェックしてから玄関を出た。

玄関に鍵が掛けていた時に、お隣の玄関が開いた。
心臓が跳ねる。

「あ、おはようございます!」

爽快に渦巻さんが俺に挨拶してくれる。
しかもにっこりと微笑んで。

うわ。
可愛い!
殺人的な可愛さだ。

「おはようございます」

俺も挨拶を返す。
なんとか笑顔を浮かべる。

上手く笑えているかは自信がない。
女性に対してこんなに緊張することは今までなかった。
渦巻さんにだけだ。

たまにこうして朝の出勤時に会えることがある。
彼女は仕事柄土日もたまに出勤で、その代わり平日が休みになったりしているらしい。
早出と遅出もあるようだし。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ