ミナクシ

□スイートハート
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朝、会社の最寄り駅で俺は時間を潰していた。
週に一度はこうやって、こんなことをしている。

そこで赤い髪の女性が視界に入った。
俺は無意識に身体が動いていた。

「おはよう! 渦巻さん」

駆け出して、彼女に追いつく。
すると俺に名前を呼ばれた渦巻さんが長い髪を靡かせて振り返った。

「おはよう、波風君」

渦巻さんは少し驚いてから、笑顔で挨拶を返してくれる。

彼女は会社の同期。
内定式の時から彼女のことは知っていたけど、去年の3月まで渦巻さんは都内の支店勤務だった。
去年の移動で本社の受付を担当することになったのだ。

彼女のことはずっと良いなと思っていたけど去年の4月から頑張ってアピールしている。
だけど、残念ながら反応はイマイチだ。
彼女は俺を同僚にしか思っていない。
……確かに同僚だけど。

彼女は総務部。
俺は企画開発部。

お互いの部署がある階も違うし、仕事で連携を取ることもない。
職場では全く接点がないのだ。

たまに会社から外出するときに、受付の彼女を見かけるくらいだ。
だから、見かけたら声を掛けるようにしている。

最初は怪訝な顔をして戸惑っていた渦巻さんも笑顔で答えてくれるようになった。
だけど、食事に誘おうとすると上手く逃げられてしまう。

どうすれば彼女と恋人になれるのだろうか。

「今日は良い天気だってばね」

渦巻さんが空を見上げて言った。
俺をつられて空を見上げる。
高層ビルの隙間から、雲一つ無い青空が広がっていた。

彼女に言われるまで気がつかなかった。
渦巻さんに視線を戻すとにっこりと微笑んでいる。

心臓が高鳴るのが自分でもわかった。
俺は彼女のこんなところが好きなのだ。
改めて強く感じた。

「いつも早いね」

俺は高揚した気分で渦巻さんに言った。

彼女はいつも朝早く出勤する。
今だって始業開始まで一時間あるのだ。

「波風君はもっと早いでしょ? たまにゆっくりの時に会うみたいね」

俺は驚いて彼女を見た。
そんなことを知られているなんて思ってもいなかった。
実はいつもだったらこの時間、もうオフィスにいるのだ。

そんな俺を見て渦巻さんはクスクス笑っている。
何が可笑しいのだろう?
俺は首を傾げて見せた。

「波風君のことを知りたいって女性職員達が噂してたってばね」

クスクス笑っている渦巻さんに俺は眉を潜めてしまう。
つまり彼女は俺に興味が無いと言いたいのだ。
他の女性のことなんてどうでもいいのに。

そんな話をしているうちに会社に着いてしまっていた。

「それじゃ」

渦巻さんはそう言って自分の部署へと行ってしまった。
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