ミナクシ

□スイートハート2
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クシナと付き合うようになって7ヶ月になろうとしていた。
俺たちは上手くいっていると思う。

12月にも入り、俺は畑部長とロンドンへと出張へと行っていた。
来年の4月からはロンドン支店へ移動になりそうだ。
まだ一部の人間しか知らない。

ロンドンから成田に到着したのは日付が変わろうとしているところだった。

「どうだい? ロンドン支店は」

畑部長が俺に問いかける。

「やり甲斐がありそうです」

俺は正直に答えた。
ロンドン支店を見学し、体験出来たことはこの出張での大きな収穫だった。

「そうか。楽しみにしているよ」

畑部長は笑う。
その笑顔が少し寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。
きっと、俺自身が寂しいと感じているからだろう。
もっと畑部長から色んな事を教わりたいと願ってしまっている。
人間的にも仕事の能力も彼の右に出る人はいない。

でも、畑部長の期待に応えなければ。
それが彼に対する最大の恩返しになるのだから。

俺と畑部長は最終電車で成田から自宅へと帰った。
時差ぼけを感じる。

「それでは、また月曜日に」

「はい、お疲れ様でした」

俺は畑部長と駅で挨拶をして別れた。
それから、俺は腕時計を見る。

もう日付が変わっていた。
クシナはもう眠っちゃっただろうかと思うとメールすることも躊躇われてしまった。


✽✽✽✽✽


翌日、俺は時差ぼけでフラフラしながらもクシナが住んでいる社宅へと向かった。
クシナの部屋に行くのは初めてだ。

いつもは俺の部屋で会うことが多い。
クシナはあまり俺と付き合っていることを他人に話したくはないようだった。
彼女と仲の良いミコトは知っているようだけど。
俺も親しくしているシカク達には話しているし。

確かに社内恋愛はやっかいだ。
でも、俺はクシナとのことを隠したくはなかった。
……クシナは俺と付き合っているのを知られるのが恥ずかしいのだろうか?

俺はいつの間にかクシナが住んでいる社宅へと来ていた。
思っていたより大きなマンションだ。
会社名義のものだから、ここの住人は支店が違ったとしても全てが同じ会社の人間だ。

オートロックのインターフォンを押そうとした瞬間、エントランスから見覚えのある顔が見えた。

「あ、波風君だ!」

同期の女性が俺の名前を呼ぶ。

「本当だ、波風だ」

「何してるんだ?」

次々に俺に話し掛けてくる。
……まずいときに来てしまったようだ。
同期の人間達でどこかに出かけるようだ。

「ん、渦巻さんに会いに来たんだ」

俺は正直に答えた。
やっぱりクシナのことは隠したくはない。

「え?」

同期の女性の顔色が一瞬変わった。
その女性に見覚えがあった。
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