ミッシング・ハート2

□エピローグ
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「…………」
空を眺めていた。
澄みきった青空。
緩やかに流れていく雲。
頬を撫でていく涼風と、暖かい太陽の日差し。
そのどれもが心地好く、そのどれもが安らぎを与えてくれる。
ようやく身体は動くようになってきたが、もうしばらくは、このままでいたかった。
「…………」
これから、どうするのか。
具体的なことは一切考えていないが、特に不安だとは思わなかった。
街がどの方角にあるのか、詳しくは知らない。
どれだけ離れているのかも、分からない。
だが分からないからこそ面白い──そんなことを思えるようになった自分が妙におかしくて、ベオクは少しだけ笑った。
「さて──」
なぜか時間はかかってしまったが、傷は治った。
もう少し休んでいたいというのが本音だが、そろそろ潮時だろう。
ツヴァイたちを乗せた輸送機がこの領域から離れてから、それなりに時間が経過した。
まだ猶予はあるだろうが、アーク支部から現場確認・調査を旨とした部隊が来るはずだ。
それまでには姿を眩ませなければ、まずい。
負けるとは思えないし、腹も減った──が、今は人間を襲う気にはならなかった。
「そうだな、輸送機が向かった方向と逆に進んでみるか」
自分の進む先を眺め、適当な計画を立てる。
緑が生い茂った山脈しか見えないが、悪くはないだろう。
食料となる果実や動物もいるだろうし、山の向こうに何があるのか──空の彼方にどんな光景が広がっているのか、考えただけで胸が高鳴った。
ただ、仲間とは言っていいのか分からない関係だったが、ツェーンとツヴェルフに別れの言葉を伝えられないのは少しだけ心残りではある。
縁があれば、また出会うことになるだろうが、その時は敵同士になるかもしれない──そう思うと、自然と胸が痛んだ。
(そうか──)
自分でも、今まで気がつかなかった。
今更ながら気がついた。
(私は、ツェーンとツヴェルフのことを割と気に入っていたのかもしれないな。アイツらの『マスター』とやらが誰だか知らんが、アイツらも自由に生きていくという選択を選んでくれれば、本当の意味で仲間になれたかもしれん)
アイツらと酒でも酌み交わしながら談笑してみたかったと、今だからこそ思える。
まあそんな光景、簡単に想像できないが。

──と。

そんなことを考えつつ、最初の一歩を踏み出した瞬間、
「一体、どこに行くつもりですか?」
背後から呼び止められた。
聞き覚えのない声だ。
出鼻を挫かれ、ベオクは億劫そうに振り返る。
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