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□苦手なモノ
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俺には苦手なものがある。

それは誰もが知っての通り虫さんだ。
男のクセに虫なんか、と良く言われるが無理なものは無理。

それに苦手なものがない人間なんていないのだから仕方がないと思う。





と、ふとそこで俺は気づいた。

“坊の苦手なものは?”


坊とはずっと一緒に居るし恋人なのに、俺は坊の苦手なものを知らない。










「で、坊の苦手なものって何ですか?」

「は?」



勉強している坊は訝しげに俺を見る。
それはそうだ、何の脈絡もなくいきなり聞いたのだから。




「だーかーら、坊の苦手なもの、ですっ!」

「はぁ〜…、俺の苦手なもんかぁ。」




勉強の邪魔をしているのに真剣に考えてくれる坊はやっぱり優しい。
顔はちょっと怖いけどそこも可愛いし、性格もいいし真面目で勉強も運動も出来る。

完璧に近いこの人には苦手なものなどないのだろうか。






「やっぱり坊にはそないなもんないですよねぇ。」

「や、苦手というか怖いもんはあるわ。」





坊の怖いもの…。

和尚なわけないし、女将さんだろうか。
それとも悪魔…、だったら祓魔師を目指しはしないだろう。


考えるけれどやっばり俺には分からない。







「怖いもん……って何ですか?」

「……に、…れ、や。」


坊がそっぽを向いて小さな声で何かを言ったが俺の耳には届かなかった。

なので机から身を乗り出して顔を坊に近づけた。




「すんません、よお聞こえんかったんでもう一回。」

「やから…、お前に嫌われることやっ!」




先程と同じくらい小さな声だったが今度はしっかりと耳に届いた。

あまりに可愛らしい答えに俺は思わず近くにある坊の頭を抱いた。






「ほんと坊はかいらしいわあ〜〜〜っ!」

「やめっ、離れぇっ!!」




俺の胸の中で暴れるがそれはほんの小さな抵抗で。

益々可愛らしくて仕方がない。

















「でも安心しはってください。俺が坊を嫌いになるなんて一生ありまへんから。」

「…………おぅ。」





坊には苦手なものなんて一つもない。

やっばりこのお人は完璧らしい。



end
 

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