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□恋文
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「坊、金兄からなんか届いてますえ?」


「小包…?何やソレ?」



上京して早数ヶ月。
金造から何か送られてくるのは初めてだった。

昨晩も一通メールが来ていたが荷物を送ったなんて一言も書かれていなかった。




「CDですかね?金兄のことやから新曲でも送りつけてきたんとちゃう?」


「そおか、とりあえずありがとぉな。」




荷物を受け取り自分の部屋に引っ込むと早速紙袋の封を切る。

中から出てきたのはやっぱりCDで、タイトルも何も書かれていない真っ白な物だった。




「何や、コレ。」




取りあえずCDをプレーヤーにセットしてイヤホンを耳に差し込んだ。


ほんの数秒で曲が始まる。
始まりはとても静かだった。


派手好きな金造にしては珍しいアコギ一本。

相変わらずギターは下手くそやな、と思いながら聞いていると呼吸音が一つして歌が始まった。










“溢れる気持ちを伝えたくなって筆を執った。

けど思いが形にならなくて、グチャグチャになって、

結局伝えたいことは何一つ伝えられなかった。


それをこの距離のせいにして八つ当たって、今日も俺は空回り。”










久しぶりに聞く金造の声。

電話なんて照れくさくて出来なくて。


でもやっぱりこの声が大好きだ。









“元気でやってる?早く会いたい、寂しい、頑張れ。


どれもなんかしっくりこなくて。

今日も俺はずるずる先延ばし。”








普段はノリが良いロックばかり歌う金造のバラード。

似合わない、そう思う筈なのに何故か胸に染み込んで、聞いているこっちさえ激情に引き込まれそうになる。










“ノートに書いて消して行き詰まって空見上げた。
そこには無数の星。

ああ、この星を貴方も見てるかな?


考えるのは貴方のことばかり。”










これは俺への曲だと自惚れていいんだろうか。

普段は平気そうな金造も寂しくなって、俺のことを考えてくれてるのだろうか。












“貴方のことばかり考えていたらやっと気づいた。

俺の伝えたい言葉はたった一言。


これだけだって。”





「愛してますえ、坊。」













曲ではなくてはっきりとした言葉で金造は言った。

まるでそこに金造がいるみたいで、胸の内側から熱くなる。





「俺だって愛してるわ、アホ金造。」




















ーーーーーーーーーーー



「新曲どうでした、坊?」


「ああ、アレはダメや。聴かせられるもんとちゃう。」


「珍し、金兄でも下手な時あるんやね。」


「そやな。送り返したるわ。」

(とっておきの恋文を!)




end
 

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