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□手を伸ばす
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黄と黒の斑模様。

ひらひらと揺れる羽が綺麗で思わず手を伸ばした。






「アカンッ!」



大きな声に驚いて俺は急いで手を引っ込めた。

反射的に弟の顔が頭をよぎったが聞こえたのは関西弁。


振り返ると勝呂が居た。




「なんだ〜、勝呂か。」

「なんだ、とちゃうわ!ってかお前今その蝶に触ろうとしてたやろっ?」


勝呂の視線の先には先ほど俺が触ろうとしていた蝶。

黄と黒の蝶は葉に止まり、羽をゆったりと開いたり閉じたりしている。



「だって綺麗だったからよ……。触っちゃダメなのか?」

「あんな、蝶の羽には鱗粉が付いてて、それとれると羽が駄目になってまうんや。」




りんぷん…と言われてもピンとこないが、とにかく羽が駄目になるということは理解出来た。

あのまま俺が触れていたらきっとこの蝶は飛べなくなっていたのだろう。




「そっか、ごめんな。」




蝶に向かって謝ると大きく羽を開いて飛び立った。

高く、高く、蝶は空に消えていった。





「あと蝶って十日余りしか生きられへんのやって。…やから出来るだけそっとしたってやりたいんや。」



心優しい勝呂らしい。

そんな勝呂も俺は大好きだ。




「そっか、…でも俺蝶に生まれなくてよかったわ。」

「なんでや?」

「だって勝呂と十日しか一緒に居られないなんて辛いだろ?」




美しいと短命だって、昔雪男が言っていた気がする。

それなら俺は美しさなんかいらない。


一秒だって長く勝呂と一緒に居たい。






「…そやな。蝶には悪いけど俺もイヤや。」



薄く笑んだ勝呂が綺麗で俺の心臓が大きく跳ねた。

これはトキメキかそれとも別の何かか…





とにかく勝呂に触れたくなって俺は黄と黒の髪に手を伸ばした。




end
 

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