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□特効薬
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「うっ……、」




朝から続いていた小さな痛みは昼を超えて段々とその主張を強くする。


勝呂は奥村の部屋で来たる試験に向けて勉強を教えていた。

何もこんな時に来んでも…、と恨んでみても痛みは全く引く気配はない。








「どーしたんだ、勝呂?」



勝呂が用意した問題集を解いていた奥村が、明らかにおかしい様子の勝呂に気づいた。

頭を抱える勝呂の顔を覗き込む。






「ちょお頭が痛いだけや。」

「大丈夫か?」

「平気や。それより早よう勉強せなアカンし。」




勝呂の言う通り休んでる暇はない。

いつも赤点だらけな奥村にはいくら時間があっても足りないくらいなのだ。




気合いを入れる為、乱れた髪の毛を纏め直そうと勝呂はカチューシャを取る。

長い前髪がサラサラと流れ視界を塞ぐ。





遮られた視界の奥で影が濃くなった。

奥村が勝呂の頭を撫で始めたのだ。






「おく、むら?」

「無理、すんなよ。」




心配と優しさが混じったような声が勝呂の耳を擽る。

絶妙な力加減と暖かな手で撫でられる頭が気持ちいい。








「昔さ、雪男にもよくやったんだ。」

「若先生も頭痛くなるんか?」

「んーん、アイツはよくいじめられて泣いてたからよ。」





あの先生がいじめられるなんて想像できんな、と思いながら勝呂は少し胸が痛んだ。


実の弟に嫉妬するなんて勝呂は自分自身に驚かされる。






「なあ、奥村。今はやらんのか?」

「何を?」

「若先生にもこないなことや。」

「はぁ?やるはずねえし…、もしかして嫉妬?」

「うっ…、うっさいわ!」




頭を撫でつつもニヤニヤと笑う奥村に勝呂は頬を赤く染める。

からかったつもりの奥村はまさか図星だとは思わずつられて頬を染めた。



しばらく無言が続いたが奥村がおずおずと口を開く。






「でもよ、マジでこんなことするの勝呂だけだから…。」

「お…おん。」

「だから…、勝呂も俺だけにして?」







そんなこと言わなくたってお前だけや、と勝呂は叫びたかったがそれは言葉にならなかった。

奥村があまりにもいつもの雰囲気と違ってどうにも調子が掴めないのだ。



もっと簡単に言うと奥村が格好良すぎるせいで、勝呂の心臓は爆発寸前だった。


もう頭痛なんて気にもならないくらい心臓がひきつり痛む。

























アナタの手はとっておきの特効薬


ただし副作用はどうしようもなく甘い胸の痛み














(もう往生してしまいそうや…、)




end
 

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