群雄繚乱
□風林火山
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1943年細川氏が時の将軍足利義伊を追放し新たな将軍義澄を立てる。
この出来事により、日ノ本は戦渦に包まれることとなった。
花倉の乱での今川義元の勝利、足利義明の戦死、栄枯必衰の理…主権は新たな武将へ移り行く。
「元就様、本当に尼子を攻めるのですか?」
郡山城内では兵の悲痛な声が上がっていた。
先の尼子三万対毛利三千の戦(吉田郡山城の戦い)で勝利を収めたが、その後の出雲攻めで大敗。
そんな中、元就が戦を仕掛けようと目論む相手はあの尼子。かつて毛利が仕えた家で、安芸を脅かす大きな勢力に変わりはない。
「フン。貴様は我ら毛利が負けるといいたいのか?」
元就はあくまで不敵な態度を示す。
「…はい。尼子国久・誠久父子は武勇優れた人物と聞き及んでいます。さすがの毛利でも…」
元就に意見した参謀は身をちぢこめる。
別に元就が睨んだわけでも、何か言ったわけでもない。
ただ、参謀の両側に槍を構えた兵が立ち、槍先を彼の首筋に当てただけだ。
「もっ元就様!?こ…これは!!?」
「我は何も今、尼子と事を構えるなどとは言っておらん。先日我が言った意味が分かっておらぬようだな。その耳は不要か?」
兵の槍先がその参謀の両耳にあてがわれる。
「ひいッッ!!!!」
「尼子の前にまず小早川、吉川を手に入れる。元春は既に吉川に養子に出す予定であるし、小早川には盲目の幼子がいる。付け入る隙もあろう?して、貴様が心配しておる尼子国久・誠久父子の事だが、そいつらは尼子本人に殺させようと思っておる。工作に時間がかかるがな。後は毛利家の不穏分子の粛清…これだけ下準備をしてもまだ貴様は毛利が不利と見るか?」
参謀は呆気に取られていた。元就は普段こんなにも話す事はないし、臣下に策略を打ち明けるのも初めての事だった。
「いえ…そこまで考えておられたとは…」
参謀は納得したように言う。
元就もそれを見やり、
「満足したか?とはいってもこれの実現は7,8年後だろうが。」
「十分でございます。」
怯えていた参謀はすっかり安心しきっていた。
元就が次に口を開くときは何をいうかも考えもせず。
「そうか。ならば、死ね。」
落ち着いた声が響き渡り、刹那。参謀の両脇に控えていた兵士が同時に槍を振るう。
情報を知ったものは生かしておけない。これが理。
全てが終わったとき、元就の部屋に立っているのはたった一人。
「また…日の輪の民を失ってしまった。」
彼の着ている鎧の袖口から覗く短剣が、紅く染まっていた。
二人の兵の肉塊から刀を引き抜く。
「失われた命はもう戻らぬというのに…」
端正な顔に流れ落ちる水滴。
誰も居ない部屋で彼は一人、自分に言い聞かせる。
「盤上の駒にかける情など要らぬ…」
「全ては日輪の民が為に。」