群雄繚乱

□狂気散華
1ページ/1ページ

「ああ、つまらない。」



男は戦場を歩く。



「つまらない。」




誰も動く事のない戦場を、一人で歩む。




男の歩く右には、赤の兵が倒れていて。





男の歩く左には、青の兵が倒れていて。








男はそのどちらにも属さず、ただ斬り進んだ。






いや、狩り進んだ。というほうが正しい。



「どれだけ殺しても、足りない。私は満ち足りない。」




男の手には、身長と同じかそれより長い大鎌が握られていた。
澄んだ色の瞳には、肉塊だけが映っている。




端正な顔立ちに長く伸びた髪。




稲葉山城に従兄弟から呼び出されたのはもう二年も前の事。




日ノ本では毛利が井上らを粛清し、織田信長が家督を継いだ。


世界はまた変化を見せ始めている。


乱世が終わるのはいつの事だか。


「また、日ノ本が戦禍に包まれる。」


一時期落ち着いた武田も、村上の崩壊と共にまた勢いをつけた。




パシャ。と男は血溜まりに足を踏み入れた。
革の靴が血で赤く染まっても気に留めない。




「渡る乱世は愚者ばかり…」




男に一人の兵が斬りかかる。殺し損ねたのだろう。



男は鎌で一閃する。



ピッと顔に返り血がつくが、気にしていない。
むしろ嬉しそうに舐め、動かなくなった死体に鎌で傷をつける。この、白い肌に紅い華を散らす瞬間が好きであった。





思い浮かぶのは、かつて同じような状態を晒した愛しい亡骸。記憶の片隅から離れることの無い狂喜の根源。美濃の地に来る前の、もっとはるかに遠い過去の遺物。

「ふ…クックク…クハハハハハハハ!!!」



男は狂ったように笑い出す。














数年後、この男…明智光秀は時の将軍の側近として日本史にその名を現すのだが。










ただ、今は、誰一人動かぬ戦場で、狂気にまみれた笑い声だけが響き続けている。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ