鮮血とコイと人助け。 書物

□第一話
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<第一話> 蝶の次の鬼





私は、吸血鬼の先祖返り。



先祖返りとは、先祖が過去に妖怪と交わり、その妖怪の血を濃く受け継いで生まれてくる者たちのこと。



先祖返りは、先祖である妖怪と同じ日、同じ時間、同じ容姿、同じ性質をもって生まれる。



そして稀に記憶まで受け継いで、不思議と同じ運命を歩むと言われている。



先祖返りの生まれた家は栄えると言われており、多くの家で先祖返りは始祖の再来として敬われる。



だが、そこに情のある愛など大半は存在しない。



大抵の先祖返りは産みの親とは隔離されて育つ。それも、先祖返りの家計の多くは、宗教染みた部分があるからだ。



そんな家に嫌気がさして、一人暮らしを決意することになったのだが。



私がこれから住むのは、メゾン・ド・章樫(あやかし)。通称「妖館(あやかしかん)」



一世帯につき一人のSS(シークレットサービス)がつき、最強のセキュリティーを誇る最高級マンション。



SSとは護衛の事だ。私には不必要だから断ったが。



家賃は高額で、由緒ある家柄のみの入居が許されるという表向きの理由の裏に、妖怪の「先祖返り」である者が純血の妖怪に狙われないよう身を寄せ合い助け合うシステムが作られている。



つまり、私のような人間が、住みやすい環境下にあるのだ。



そう、この・・・私の目の前にそびえ立つマンションが、妖館だ。



SSは雇っていないため、荷物を運ぶときは苦労するが、貴重品以外は業者に頼んだし・・・片付け以外は楽勝だろう。



大きめのキャリーバッグを引きずって妖館に入る。



エレベーターまで急ぎ足で向かい、△のボタンを押す。



正直なところ、例え”お仲間”といえど、人と仲良くするのは苦手だ。



それを表面に表したことはないけれど。



チン、という音とともにエレベーターが開く。それに迷うことなく乗り込んで階を指定する。



・・・ここまでくれば誰とも会うことはないだろう。



明日以降はわからないが、今まで空き家だった八号室の階に待ち構えている者はいないだろう。



今日は部屋を出なければいい。そうすれば、今日は他人と会うことはないだろう。



エレベーター内でゆったりしていると、到着を知らせる音が鳴った。



あぁ、もう着いたのか。



エレベーターのドアが開いたので、出ようとすると・・・



「おやぁ?二人目の新しい入居者かな??」



・・・待ち構えている者は、いないだろうって言ったばかりなんですけど。



とりあえずエレベーターから出る。



ニコ目の笑顔を張り付けて、右目には包帯を巻いている。少し伸ばした髪を横に結わえて、頭にうさ耳カチューシャの男。



スーツを着ているから一応、SS?



「・・・お、お初お目にかかります・・・今日から八号室の住人となる、紅鬼院永久です。

 何卒よろしくお願いいたします。」



一応丁寧にあいさつして、ぺこりと頭を下げた。



「初めましてっ ボクにそんなかたっ苦しいあいさついらないよー☆

 ボクが誰かってぇ?ボクは夏目残夏 一号室の渡狸ってやつのSSさっ」



にーんっとテンション高めな笑顔で男はそう告げた。



「え、あ・・・はあ・・・」



まず、なんでここにいるのかの方が知りたいし、彼が誰かよりも関わってほしくないんだが。



そんな思いを知ってか知らぬか、たぶん知らない。夏目とやらは紙芝居らしきものを取り出した。



「ボクはねー聖マリア病院にて23年前に生誕3020gの男の子!

 すくすくとお茶目に育った乙女座B型 彼女はいませーん(はぁと」



ほわほわとした雰囲気で語っている夏目。いや、聞いてねえよ?



ちなみに一頁目には、ベッドへ横になる母うさぎと、その横に立っている看護師うさぎ、看護師うさぎに抱かれた赤ちゃんうさぎの絵が。



話の流れ的にはこの赤ちゃんうさぎが彼なのだろう。



そしてページが捲られる。そこには大勢いるうさぎの中で一人寂しそうにしているうさぎにスポットライトがあてられている絵。



「だけど『百目』という妖怪の先祖返りであるボクはその目で見たくないものまで見えてしまう・・・。

 そういう悲しい性をも背負っているの・・・」



次のページ。荷物を抱え、寂しそうに歩くうさぎの絵。



「人間不信や孤独と闘いながら西へ東へ・・・」



「あ、あのっ・・・」



・・・早く部屋に入りたいんだが?



「おっと ボクの事がもっと知りたいって!?ダーメ(はぁと

 ちょっとミステリアスな方がそそるでしょ?(はぁと」



いや、訳わからねえよ。



「でもねーボクはキミのことよーく知ってるよ?紅鬼院永久ちゃん?

 だからボクはこの八号室の階で待って・・・ッ!?」



そこで夏目は私を見て目を見開いた。





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